未来へ繋ぐ、禁断のタイムスリップ

影に操られた“偽リオ”

麗の吐息は深く、重く。
部屋に差し込む灯りが揺れ、彼の横顔を陰らせる。

「……あの時、俺は完全に騙されていた」
低く抑えた声が、莉緒の胸に突き刺さる。

「愛した“リオ”は、本物ではなかった。だが――彼女自身は、自分が偽物だと気づいていなかったのかもしれない。誰かに操られていたように……ただ運命に従っていただけだった」

「操られて……?」
莉緒は思わず問い返した。

麗の目が鋭く光る。
「そうだ。背後に、必ず“影”がいた。俺の前に偽りのリオを送り込み、俺を試すように仕向けた者が……」

莉緒の背筋に冷たいものが走る。
「その“影”って……今も私たちを狙っているの?」

麗は答えず、ただ莉緒を抱き寄せた。
「わからない。だが……これだけは言える。お前を狙う者がいる限り、俺はお前を絶対に守る」

彼の腕の強さに、莉緒は心が震える。
けれど、心のどこかで拭えない疑問が渦を巻いていた。

(どうして私が“本物のリオ”なの?
どうして狙われるの?
……そして、あの“影”は一体――)

胸の奥に芽生える恐怖を押し隠しながら、莉緒は静かに麗の胸に顔を埋めた。
その瞬間、窓の外から冷たい風が吹き込む

まるで――“影”がすぐそばまで忍び寄っているかのように。

静まり返った部屋に、不意に扉が開いた。

「――もう隠せませんね」

低く落ち着いた声。
そこに立っていたのは、九条家の執事・俊樹だった。

「俊樹さん……? どうしてここに」
驚く莉緒をよそに、俊樹はゆっくりと歩み寄る。

「莉緒さん――いえ、莉緒様。あなたが“本物のリオ”であることは、すでに確定しているのです」

その言葉に、空気が張りつめた。
麗の瞳が細められる。
「……やはり知っていたな。すべてを」

俊樹は、深く頭を下げた。
「ええ。しかし、全貌をお伝えできなかったのは……あの方の存在があまりにも大きすぎるからです」

莉緒は息を呑む。
「あの方……?」

俊樹は静かに続けた。
「これまで幾度となく“リオ”という名を持つ者たちが時を越え、この家に現れてきました。古文書に記された運命をなぞるように。けれど彼女たちは皆――“影”によって操られ、九条家を混乱させる駒とされてきたのです」

麗が低く問い詰める。
「つまり、あの時……俺の前に現れた“リオ”も」

「はい。あの方もまた、影に仕組まれた存在でした」

莉緒の胸が締めつけられる。
――やはり、麗が語った過去は真実だった。

「ですが」
俊樹は、莉緒を真っ直ぐに見つめる。
「あなたは違う。古文書に記された“最後のリオ”。繰り返しを終わらせる唯一の存在。……だからこそ、影はあなたを狙っている」

部屋に沈黙が落ちた。

麗は黙ったまま、莉緒の手を強く握る。
「……全部話せ、俊樹!黒幕は一体誰なんだ」

しかし俊樹は首を横に振った。
「それはまだ――明かせません。お二人が決断を下す時まで」

その瞳には、決意と同時に、どこか影を背負った哀しみがあった。


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