未来へ繋ぐ、禁断のタイムスリップ

おとり

「本当に……私をおとりにするの?」

莉緒は畳の上で正座したまま、不安そうに麗を見上げた。
胸の奥がざわめき、手のひらは汗でじっとりと濡れている。

麗は彼女の前に腰を下ろし、その瞳を真っ直ぐに見つめた。
「……怖い思いをさせるのは分かっている。けれど、これしか方法がない」

「でも……」

「莉緒が“本物”だと分かった以上、父上は必ず動く。
お前を奪うか、消すか……どちらにせよ仕掛けてくる」

その言葉に、莉緒は小さく震えた。
彼の言う通りだと分かっている。
けれど、自分をおとり―そんな考えが恐ろしくて仕方がなかった。でも愛する麗を信じる莉緒だった

「……私は、どうすればいいの?」

か細い声。
その問いに、麗は一瞬迷いを見せ、それでも毅然と告げる。

「“逃げようとしているふり”をするんだ。俺から距離を取っているように見せかけて、父上の影を引き寄せる」

「逃げる……ふり……」

「そうすれば、必ず向こうから姿を現す。俺は必ず後ろにいる。――絶対に手は出させない」

麗の声は強く、揺るがなかった。
その気迫に、莉緒の胸の奥の恐怖が、少しずつ和らいでいく。

「……信じて、いいのね」

「何度でも言う。信じろ、莉緒。俺は二度と大切なものを失わない」

莉緒はぎゅっと唇を噛みしめ、そして静かに頷いた。
「……分かったわ。やってみる」

麗の瞳が一瞬やわらぎ、微笑が浮かぶ。
「それでいい。――お前は強い」

だが、その優しい微笑みの奥に、凍りつくような決意の炎が燃えていた。
父を裏切り、家を敵に回す覚悟。
そのすべてを背負ってでも、彼は守ってくれると莉緒は感じた。




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