未来へ繋ぐ、禁断のタイムスリップ

対峙

夜の庭は、月明かりに照らされて白く輝いていた。
その縁側に、一人立ち尽くす莉緒。
息を潜めるように背筋を伸ばし、まるで逃げ出そうとしているかのように見せかける。

――芝居。
これはすべて、黒幕を引きずり出すため。

だが心臓は嘘をつけない。
どくどくと早鐘を打つ鼓動が、耳の奥で響いていた。

「……やはり来たな」

背後から低い声。
莉緒の背筋が凍りつく。

怖いーー。麗様…守って…

振り向けば、月光を背にした男の影がそこにあった。
重厚な和装、圧倒的な威圧感。
麗と同じ鋭い眼差し――九条家当主、九条宗一郎。

「父上……!」
物陰に潜んでいた麗が姿を現し、低く睨みつける。

宗一郎は一瞥もせず、ただ莉緒をじっと見据えた。
「やはり……“本物”か」

宗一郎は薄く笑った。
「数多の“リオ”を見てきた。だが……お前は違う。古文書に記されていた存在――時を越えて現れる真の“リオ”。
九条の血と運命を揺るがす者だ」

その声には、畏怖と執着が入り混じっていた。

「だから……?」
麗の声が鋭く割り込む。
「だから莉緒を利用するのか。お前の野望のために」

宗一郎の瞳が、初めて麗を見た。
父と子、鋭い視線が真っ向からぶつかる。

「麗。お前には分かるはずだ。この女を手に入れれば、九条は永遠の力を得る」

「ふざけるな……!」
麗は一歩、莉緒の前に立ちふさがった。
「俺は、家も力もいらない。ただ莉緒さえいればいい」

「愛など一時の幻だ」
宗一郎の声が低く響く。
「その幻に溺れ、また大切なものを失うつもりか?」

その言葉に、麗の瞳がわずかに揺らいだ。
過去の痛みが、胸を突き刺す。
――以前、大切な人を守れなかった記憶。

けれど、すぐにその迷いは消える。
麗は莉緒の手を取り、強く握った。

「違う。今度は失わない。俺は莉緒と生きる」

宗一郎の目が細められる。
次の瞬間、張り詰めた空気がさらに濃くなった。

嵐の前触れのように、静寂が支配する庭。
そして、父と子




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