冷たい瞳の彼と、約束された未来

第四章　揺らぐ関係

　翌週、父に頼まれ、ある慈善パーティーに出席することになった。
　会場は都内の高級ホテル。重厚な絨毯と香水の匂いが混じり合う空気の中、私は控えめにシャンパンを口に含む。

　人混みの向こうに、見慣れた背中を見つけた。悠真だ。
　グラス片手に、何かを話している相手は――長い黒髪を一つにまとめた、スレンダーな女性。
　その女性がふとこちらに目を向け、微笑んだ。

　「桐谷彩花さん……ですよね？」
　背筋が自然と伸びる。彼女は背の高いヒールを履きこなし、淡いラベンダー色のドレスをまとっていた。
　「私は氷川玲奈。裁判所勤務で、悠真とは同期なんです」

　「……そうなんですね」
　礼を返すと、玲奈は小さく笑みを深め、グラスの縁に指を滑らせながら続けた。

　「彼、普段からあまり感情を出さないでしょう？　仕事柄もあるけれど……恋愛より、まず仕事優先の人だから」
　さらりと放たれた言葉が、胸に小さな棘のように刺さる。
　「だから、あなたのことも……大事にしていないわけじゃないと思うけど、優先順位はきっと変わらないわね」

　その声音は、まるで私と彼の距離を測るかのようだった。
　私は微笑みを崩さぬまま会話を切り上げ、会場の隅に身を移す。

　けれど、ふと視線を感じて振り向くと、少し離れた場所から悠真がこちらを見ていた。
　その瞳には、いつもの冷たい光ではなく――言葉にできない、複雑な色が宿っていた。

　それが何を意味するのか、私にはまだ分からなかった。
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