街の優しい弁護士の偽装恋人……のはずが、本命彼女になりました!
カフェの店内はエアコンが効き、明るい照明に満たされている。
大きな窓の外は晴れて青空が広がっている。
丸い照明がスズランのようにかわいらしく垂れ下がり、アレカヤシの緑が目に優しい。
紙森遼子は一心不乱にノートパソコンで字を打っていた。
忘れないうちに打ち込んでおきたい。記憶力なんてあてにならないのだから。
出版社の編集になるのは憧れだった。今はその仕事をできているのだから、なんとしてでもやりとげたい。自分の手でベストセラーを出したい。
そのためにも企画を通して小説コンテストを開いてもらうのだ。
必死に打っている遼子は、だから自分に近付く人がいるなんて気付きもしなかった。
「よお、頑張ってるな」
声と同時に頭にぽんと手を置かれた。
ふりむくと、見知らぬ男性の笑顔があった。三十過ぎだろうか。イケメンな彼は艶やかな黒髪をしている。青いシャツに紺のボトムをはいていて、誠実そうに見えた。
目が合った瞬間、彼の顔色がさっと変わる。まるでシャッターを下ろしたかのように無表情になった。
「失敬。人違いです」
彼は丁寧に頭を下げた。
「あ、はい……」
遼子は目をぱちぱちさせて答えた。
男性は再度、優雅なお辞儀を見せてから立ち去る。
ああびっくりした。失敬なんてリアルで初めて聞いた。ま、いいや、続きを……。
そう思った遼子は青ざめる。
「続きの文章、忘れた」
彼女は目をつむり、天を仰いだ。
大きな窓の外は晴れて青空が広がっている。
丸い照明がスズランのようにかわいらしく垂れ下がり、アレカヤシの緑が目に優しい。
紙森遼子は一心不乱にノートパソコンで字を打っていた。
忘れないうちに打ち込んでおきたい。記憶力なんてあてにならないのだから。
出版社の編集になるのは憧れだった。今はその仕事をできているのだから、なんとしてでもやりとげたい。自分の手でベストセラーを出したい。
そのためにも企画を通して小説コンテストを開いてもらうのだ。
必死に打っている遼子は、だから自分に近付く人がいるなんて気付きもしなかった。
「よお、頑張ってるな」
声と同時に頭にぽんと手を置かれた。
ふりむくと、見知らぬ男性の笑顔があった。三十過ぎだろうか。イケメンな彼は艶やかな黒髪をしている。青いシャツに紺のボトムをはいていて、誠実そうに見えた。
目が合った瞬間、彼の顔色がさっと変わる。まるでシャッターを下ろしたかのように無表情になった。
「失敬。人違いです」
彼は丁寧に頭を下げた。
「あ、はい……」
遼子は目をぱちぱちさせて答えた。
男性は再度、優雅なお辞儀を見せてから立ち去る。
ああびっくりした。失敬なんてリアルで初めて聞いた。ま、いいや、続きを……。
そう思った遼子は青ざめる。
「続きの文章、忘れた」
彼女は目をつむり、天を仰いだ。
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