街の優しい弁護士の偽装恋人……のはずが、本命彼女になりました!
 いくら待っても続きの文章が降りてこない。ちょっと書いてはまた消して、を繰り返した私はあきらめて文書を保存して閉じた。ノートパソコンの電源を落としてバッグに入れ、伝票を手に取ろうとして首をかしげた。さきほどまであったはずなのに、ない。
 レジで伝票がないことを告げると、意外なことを言われた。

「さきほど、お連れの方が払って行かれました」
「え?」
 まさか、さっきの人が?
 正解はわからない。だけどお会計が済んでいるというなら、このままレジにいたら邪魔になってしまう。

「ごちそうさまでした」
 声をかけ、遼子は店を出た。
 外は晴れて明るく、空は高く澄んでいた。



 翌週、遼子はまた同じカフェでノートパソコンと奮闘していた。
 集中が切れて顔を上げると、見たことのある顔にどきっとした。

 この前、頭ぽんをしてきた男性だ。今日はネクタイをしめており、スーツを身に纏っている。
 彼の正面には黒髪の美女がいた。三十五歳くらいだろうか。自分が美人であることを知っていて、男が自分に夢中になることを知っている、そんな妖艶な雰囲気だった。

 この前はこの人と間違えた? だとしても、自分と間違える? 私は二十九歳だけど、年も外見も違うよね。
 遼子の髪は赤茶で、肩までの髪を外はねにしている。女性は黒髪のセミロングで、とうてい間違えそうにない。

 それとも、女性の知り合いが多過ぎて間違えたとか? 見た目は誠実そうなのに。
 彼に会ったらコーヒーのお礼を言いたいと思ってカフェに来たが、これでは無理そうだ。
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