不運を呼び寄せる私ですが、あなたに恋をしてもいいですか?
①
桃瀬歩実26歳。今、人生最大の絶望を味わっている。
「うそ、でしょ……」
みなとみらいに佇むオフィビルの一室。
先週金曜日まで確かに営業していたデザイン事務所。その部屋は、最初から空室だったかのようにガランと静まり返っていた。
しばらく呆然としていた歩実だったが、不意に笑いが込み上げた。空笑いがフロア全体に虚しく響く。
次々に出勤して来た社員たち全員、歩実同様呆然と立ち尽くした。
人は思いもよらない現実に遭遇すると、同じようなリアクションをするんだなぁ。もぬけの殻って、こういうことをいうんだなぁ。
などと、職を失い、先の見えない暗闇に突き落とされたというのに、歩実は妙に冷静に現状を俯瞰していた。
社員七名の小さな会社だが、それなりに仕事はあった。給料だって支払いが滞ったことはない。なのに何故⁉︎
呆然と立ち尽くす歩実たちの元へ、胸に弁護士バッジが光る初老の男性が姿を見せた。
「いやはや、皆さんさぞかし驚かれたことでしょう。私も驚いております」
アハハと、その場に似つかわしくない笑い声を上げた。
「突然破産管財人に選任されましてね。とんずらですわ、とんずら。代表と全く連絡がつかなくて困っとります。金曜日までは営業しておったと聞いておりますが、土曜日以降どなたか連絡をとられた方はいらっしゃいませんか?」
弁護士の問いに、皆お互い顔を見合わせかぶりを振った。
「そうですか…… 私は弁護士の畠山です」
畠山は自己紹介をしながら一人一人に名刺を手渡した。
「うそ、でしょ……」
みなとみらいに佇むオフィビルの一室。
先週金曜日まで確かに営業していたデザイン事務所。その部屋は、最初から空室だったかのようにガランと静まり返っていた。
しばらく呆然としていた歩実だったが、不意に笑いが込み上げた。空笑いがフロア全体に虚しく響く。
次々に出勤して来た社員たち全員、歩実同様呆然と立ち尽くした。
人は思いもよらない現実に遭遇すると、同じようなリアクションをするんだなぁ。もぬけの殻って、こういうことをいうんだなぁ。
などと、職を失い、先の見えない暗闇に突き落とされたというのに、歩実は妙に冷静に現状を俯瞰していた。
社員七名の小さな会社だが、それなりに仕事はあった。給料だって支払いが滞ったことはない。なのに何故⁉︎
呆然と立ち尽くす歩実たちの元へ、胸に弁護士バッジが光る初老の男性が姿を見せた。
「いやはや、皆さんさぞかし驚かれたことでしょう。私も驚いております」
アハハと、その場に似つかわしくない笑い声を上げた。
「突然破産管財人に選任されましてね。とんずらですわ、とんずら。代表と全く連絡がつかなくて困っとります。金曜日までは営業しておったと聞いておりますが、土曜日以降どなたか連絡をとられた方はいらっしゃいませんか?」
弁護士の問いに、皆お互い顔を見合わせかぶりを振った。
「そうですか…… 私は弁護士の畠山です」
畠山は自己紹介をしながら一人一人に名刺を手渡した。
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