不運を呼び寄せる私ですが、あなたに恋をしてもいいですか?
退院したケンは、すぐに東京に帰ってしまった。
帰る前日、歩実は助けてくれたお礼にと、真知子から教わりながら切り絵で飾り付けしたポストカードをプレゼントした。

【おにいちゃん、助けてくれてありがとう。歩実】

とメッセージを書いて。

ケンは「ありがとう」と歩実の手から受け取り、優しい眼差しを向けた。

ケンに見つめられ、心臓がドクンドクンと激しく脈打つ。照れてしまった歩実はケンの顔をまともに見れず俯いてしまった。

また、来年の夏休みには会えるかなぁ。

今年の夏休みも終わっていないというのに、既に来年の夏休みが待ち遠しくてたまらない歩実だった。



けれど翌年、歩実の楽しみは無惨にも打ち砕かれてしまった。それものはず。中学三年生になったケンは受験生だ。今年は受験勉強が忙してく来れないのだと絹枝から聞かされた時には、ガックリと肩を落とし、しばらく立ち直ることができなかった。

来年、また来年、そうやってずっと待っていたが、ケンは絹枝の家にやって来ることはなかった。そして、会うことのないまま時は流れ、歩実は大学生になり、社会人になった。

上京すればいつかどこかでケンに会えるのではないかと考え、一度きりの人生後悔したくない! そう強く訴え、渋る両親を説得。念願叶い、東京の大学に進学することができた。

卒業後もそのまま東京の企業に就職しようと就活に挑んだけれど、御祈りメールばかりが届く日々。そんな中、唯一拾ってくれたのが、今回倒産したデザイン事務所だった。横浜だが、東京に近いということもあり就職したのだ。

< 6 / 31 >

この作品をシェア

pagetop