不運を呼び寄せる私ですが、あなたに恋をしてもいいですか?
就職先は、日本を代表するゼネコン大手
【SHIMAGA建設株式会社】

契約社員とはいえ、給料も良く、福利厚生も充実している。それに、これほどの大企業なら倒産の心配はないだろう。しかも、年に数回開催される社内デザインコンペで優秀な成績をおさめれば、正社員になれる可能性もあるという。実際、毎年契約社員から正社員になった人もいるようだ。歩実の配属先はデザインとは全く関係ない総務だが、社員全員に参加資格があると知り就職を決めたのだ。


歩実は心機一転、希望を胸に、SHIMAGA建設で働き始めた。

まずは職場に慣れることからのスタートなのだが、人を不幸な目に遭わせたくないと思う歩実は、なるべく人と関わることを避けて来た。なので、極端にコミュニケーション能力が低い。かといって、受け身のままの状態では使えない人材だと判断され、正社員どころか契約更新さえもしてもらえなくなる。自分が変わらなければと、辿々しさはあるものの、積極的に話しかけるようにした。

幸い、歩実が配属された部署は黙々と業務をこなす社員が多く、余計な話をすることは殆どない。けれど、質問すれば丁寧に教えてくれるし、指導してくれる。出勤するにつれ、歩実は居心地の良さを感じるようになっていた。

けれどやはり、不運を呼び寄せてしまうことは変わらなかった。歩実の指導にあたっていた先輩女性社員宮脇(みやわき)が、階段を踏み外し転倒。残り数段だったので命に別状はなかったものの、足を捻挫してしまった。歩実がその場に居合わせたわけではないが、自分のせいではないかと申し訳なく思い、医務室で治療を受け戻って来た宮脇に、「すみせん」と思わず謝った。

「え? どうして桃瀬さんが謝ってるの?」

「いえ、なんとなく」

「ん? ちょっと意味がわからないんだけど」

「そうですよね、すみません」

宮脇はポカーンとした表情で首を傾げていた。

< 8 / 31 >

この作品をシェア

pagetop