[完結]夫の心に住んでいるのは私以外の女性でした 〜さよならは私からいたしますのでご安心下さい〜
第47話
「ジュディー!!」
「メリッサおねえさま!!」
嬉しそうに抱き合う少女が二人。微笑ましい光景だ。
ここはノース侯爵領にある我がアンドレイニ伯爵家の別荘。此処に別荘を建てて、三年になる。
「今年もお世話になります。メリッサが一カ月前から毎日楽しみだ、楽しみだと煩くて」
「お兄様だって楽しみにしていたくせに!」
マシュー様とメリッサ様とのやり取りが可愛らしくて、私はつい吹き出した。
「キルステン様、今年もご招待ありがとうございます」
メリッサ様はワンピースのスカートを摘んで綺麗なカーテシーをして見せた。
「まぁメリッサ様、とても綺麗なカーテシーですわ。ジュディーもメリッサ様に会うのを凄く楽しみにしていたんですよ」
「ジュディーは私の妹も同然ですもの!」
つい最近十一歳になったばかりのメリッサ様はそう笑顔で言う。そして、
「出来れば本物の家族になりたいぐらいなんだけど……」
と小声で呟くと、マシュー様の顔をチラリと見た。マシュー様はその言葉に苦笑いする。私はそれを聞こえないふりで受け流す。
「マシュー様もメリッサ様が寄宿学校に入ってから、寂しいのではないですか?」
メリッサ様は去年から隣国の寄宿学校へ入学した。
「女性の立ち振る舞いを学ぶには良い学校ですよ。私では教えられない事を教えてくれる。少しは大人しくなってくれれば良いんですが」
「お兄様、失礼ね!私はもう立派なレディだわ」
そう言ってメリッサ様はふくれっ面をした。
「レディはそんな顔をしないと思うがな。メリッサはキルステン様の様な女性になりたいんだそうです」
「それは光栄だわ」
私が微笑むとメリッサ様は、
「私の憧れの女性ですもの」
と少しはにかんだ。
「メリッサおねえさま、お庭にブランコができたの。いっしょに遊びましょう?」
私達の会話に痺れを切らしたジュディーがメリッサ様のワンピースをツンツンと引っ張った。
「ブランコ?じゃあ、私が押してあげる!」
メリッサ様はジュディーの手を握り、庭の方へと二人駆けて行った。
「子どもは元気だな」
マシュー様は二人の背中を見送りながら、そう笑う。
「本当に。マシュー様はお茶でもいかがですか?」
「じゃあ、お言葉に甘えて。サミュエル様は?」
「ノース侯爵と港へ。豪華客船が停泊しているので見物に行きました」
私達はお互いの近況を話しながら、サロンへと移動した。
「いやぁ……アンドレイニ伯爵の名前は隣国の田舎町まで届くようになりましたよ」
カップをカチャリと置いたマシュー様は大袈裟に私を褒めた。
「それは少し大袈裟ですけど……そう言っていただけるのは、光栄ですわ。がむしゃらにやってきた結果が出ていると思えば嬉しく思います」
「このノース侯爵領の港も……アンドレイニ伯爵は良いところに目をつけましたね」
あの港が出来たお陰で、ノース侯爵領は随分と潤った。客船が停泊する様になり、観光地としても発展。私もこの地が気に入り別荘を建てた程だ。
「共同事業に出来たお陰で私も随分と儲けさせて頂きました。アンドレイニ伯爵領に還元出来て私としてもホッとしております」
「自分には商才がある……そう思っていましたが、私なんかより、よっぽどキルステン様の方が金儲けの才能がありますよ」
「フフフ。必死なだけですわ」
私達の間に沈黙が落ちる。私がこうしてアンドレイニ伯爵として胸を張っていられるのは誰のお陰なのか……私達はその名を口にせずとも理解していた。
「……五年……になりますか」
マシュー様がサロンの窓から見える、二人の少女を見つめる。……しかし彼の目にはきっと違う人物の姿が見えている筈だ。
「そうですね。……早いものです」
お互い誰の事を言っているのか分かっている。分かっていて、名を口にしないのだ。
「エクシリアの話は?」
「噂には……。大臣に平民を採用したとか」
「彼らしい……と言えばらしいですね。あの小さな島国が随分と豊かになったそうです。それも……いや、皆まで言わずとも良いでしょう」
マシュー様はそう言って窓から目を離すとお茶をまた一口飲んだ。
マシュー様が気を遣ってくれているのは、分かっている。正直……まだ私の心がチクチク痛むのを私自身見ないふりをしているのだ。
彼がエクシリアに戻る時に私に言った言葉が忘れられない。
『もう私は幸せに手を伸ばす事はない』
「さて……私は王都に行くとしますか!」
少し沈んだ空気を振り払う様に、マシュー様はそう言って立ち上がる。
「あら?もう少しゆっくりとしていらっしゃれば良いのに」
そう言いながら、私も立ち上がる。
「ポートリー夫人からの注文の品を持って行かなければなりませんし、私も貴女と同じ仕事人間ですから」
「周りにそう言われる様になって、ちゃんと休みを取るようになりましたわ。事業も安定してきましたし、領地も理想に近い形になりました。これからは家族サービスの時間です」
私はここに別荘を建ててから一ヶ月の休養を取る様になった。ジュディーとの時間をゆっくりと過ごす為だ。
「家族サービス……。私ももう少しメリッサと一緒に過ごした方が良いんですかね」
とマシュー様は頭を掻いた。
マシュー様はメリッサを頼みますと王都へと向かった。
マシュー様が王都で仕事の間、メリッサ様を預かっている。もう毎年の事だ。三年前からはこの別荘で過ごす様になった。
「お兄様、出掛けた?」
マシュー様を見送った私に、メリッサ様は尋ねる。ほんの少し寂しそうに見えるのは、私の気の所為ではないだろう。
「ええ。今回は二週間程だそうよ」
「……仕事人間なんだから。だから結婚出来ないのよ」
とメリッサ様は口を尖らせた。
「メリッサおねえさま!!」
嬉しそうに抱き合う少女が二人。微笑ましい光景だ。
ここはノース侯爵領にある我がアンドレイニ伯爵家の別荘。此処に別荘を建てて、三年になる。
「今年もお世話になります。メリッサが一カ月前から毎日楽しみだ、楽しみだと煩くて」
「お兄様だって楽しみにしていたくせに!」
マシュー様とメリッサ様とのやり取りが可愛らしくて、私はつい吹き出した。
「キルステン様、今年もご招待ありがとうございます」
メリッサ様はワンピースのスカートを摘んで綺麗なカーテシーをして見せた。
「まぁメリッサ様、とても綺麗なカーテシーですわ。ジュディーもメリッサ様に会うのを凄く楽しみにしていたんですよ」
「ジュディーは私の妹も同然ですもの!」
つい最近十一歳になったばかりのメリッサ様はそう笑顔で言う。そして、
「出来れば本物の家族になりたいぐらいなんだけど……」
と小声で呟くと、マシュー様の顔をチラリと見た。マシュー様はその言葉に苦笑いする。私はそれを聞こえないふりで受け流す。
「マシュー様もメリッサ様が寄宿学校に入ってから、寂しいのではないですか?」
メリッサ様は去年から隣国の寄宿学校へ入学した。
「女性の立ち振る舞いを学ぶには良い学校ですよ。私では教えられない事を教えてくれる。少しは大人しくなってくれれば良いんですが」
「お兄様、失礼ね!私はもう立派なレディだわ」
そう言ってメリッサ様はふくれっ面をした。
「レディはそんな顔をしないと思うがな。メリッサはキルステン様の様な女性になりたいんだそうです」
「それは光栄だわ」
私が微笑むとメリッサ様は、
「私の憧れの女性ですもの」
と少しはにかんだ。
「メリッサおねえさま、お庭にブランコができたの。いっしょに遊びましょう?」
私達の会話に痺れを切らしたジュディーがメリッサ様のワンピースをツンツンと引っ張った。
「ブランコ?じゃあ、私が押してあげる!」
メリッサ様はジュディーの手を握り、庭の方へと二人駆けて行った。
「子どもは元気だな」
マシュー様は二人の背中を見送りながら、そう笑う。
「本当に。マシュー様はお茶でもいかがですか?」
「じゃあ、お言葉に甘えて。サミュエル様は?」
「ノース侯爵と港へ。豪華客船が停泊しているので見物に行きました」
私達はお互いの近況を話しながら、サロンへと移動した。
「いやぁ……アンドレイニ伯爵の名前は隣国の田舎町まで届くようになりましたよ」
カップをカチャリと置いたマシュー様は大袈裟に私を褒めた。
「それは少し大袈裟ですけど……そう言っていただけるのは、光栄ですわ。がむしゃらにやってきた結果が出ていると思えば嬉しく思います」
「このノース侯爵領の港も……アンドレイニ伯爵は良いところに目をつけましたね」
あの港が出来たお陰で、ノース侯爵領は随分と潤った。客船が停泊する様になり、観光地としても発展。私もこの地が気に入り別荘を建てた程だ。
「共同事業に出来たお陰で私も随分と儲けさせて頂きました。アンドレイニ伯爵領に還元出来て私としてもホッとしております」
「自分には商才がある……そう思っていましたが、私なんかより、よっぽどキルステン様の方が金儲けの才能がありますよ」
「フフフ。必死なだけですわ」
私達の間に沈黙が落ちる。私がこうしてアンドレイニ伯爵として胸を張っていられるのは誰のお陰なのか……私達はその名を口にせずとも理解していた。
「……五年……になりますか」
マシュー様がサロンの窓から見える、二人の少女を見つめる。……しかし彼の目にはきっと違う人物の姿が見えている筈だ。
「そうですね。……早いものです」
お互い誰の事を言っているのか分かっている。分かっていて、名を口にしないのだ。
「エクシリアの話は?」
「噂には……。大臣に平民を採用したとか」
「彼らしい……と言えばらしいですね。あの小さな島国が随分と豊かになったそうです。それも……いや、皆まで言わずとも良いでしょう」
マシュー様はそう言って窓から目を離すとお茶をまた一口飲んだ。
マシュー様が気を遣ってくれているのは、分かっている。正直……まだ私の心がチクチク痛むのを私自身見ないふりをしているのだ。
彼がエクシリアに戻る時に私に言った言葉が忘れられない。
『もう私は幸せに手を伸ばす事はない』
「さて……私は王都に行くとしますか!」
少し沈んだ空気を振り払う様に、マシュー様はそう言って立ち上がる。
「あら?もう少しゆっくりとしていらっしゃれば良いのに」
そう言いながら、私も立ち上がる。
「ポートリー夫人からの注文の品を持って行かなければなりませんし、私も貴女と同じ仕事人間ですから」
「周りにそう言われる様になって、ちゃんと休みを取るようになりましたわ。事業も安定してきましたし、領地も理想に近い形になりました。これからは家族サービスの時間です」
私はここに別荘を建ててから一ヶ月の休養を取る様になった。ジュディーとの時間をゆっくりと過ごす為だ。
「家族サービス……。私ももう少しメリッサと一緒に過ごした方が良いんですかね」
とマシュー様は頭を掻いた。
マシュー様はメリッサを頼みますと王都へと向かった。
マシュー様が王都で仕事の間、メリッサ様を預かっている。もう毎年の事だ。三年前からはこの別荘で過ごす様になった。
「お兄様、出掛けた?」
マシュー様を見送った私に、メリッサ様は尋ねる。ほんの少し寂しそうに見えるのは、私の気の所為ではないだろう。
「ええ。今回は二週間程だそうよ」
「……仕事人間なんだから。だから結婚出来ないのよ」
とメリッサ様は口を尖らせた。