桃ちゃんセンセと田宮くん
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この後帰社する私は、大学近くのカフェで田宮くんと向かい合っていた。コーヒー1杯を飲み終えるのにかかる時間は、久しぶりの再会を祝すのには丁度いい間である。それに正直、友人でもない田宮くんと長い間過ごして会話を保たせる自信が私にはなかったのだ。
「桃ちゃんセンセ、今何してるの?」
コーヒーを注文しても話を切り出さない私に代わって口火を切ってくれた田宮くんにホッとする。
「英文校正や翻訳といったサービスを提供している外資系の会社で働いてるよ」
はい、と私は名刺を渡す。田宮くんは、私の名刺を見て、知ってるところだ、と呟いた。その一言で私は彼が研究職に進んでいるのを察する。何故なら私の会社は、主に研究者向けのサービスを展開しているからだ。
「田宮くんは今は院生?」
田宮くんの年齢を逆算して私は問いかける。私が大学を卒業する年に高3だったから田宮くんは今、25歳のはず。ストレートにいっていたら今は博士課程のはずだ。
「うん。一応博士課程に席はあるよ。修士終えた段階で重工業メーカーに就職してるから掛け持ちだけど」
「そっか。働きながらだったら大変でしょ?」
「大変じゃないっていうと嘘になるし、時間足りないって思う時もあるけれど。多分俺の場合、仕事と院、両立している方が頭の切り替えになってるから、毎日充実してるよ」
へぇ、と私は素直に感心した。
田宮くんは塾に通っていた頃から受験勉強の傍ら、試験で出てきた問題の出典物を読んで知識を深めるところがあったのだ。
本当に地頭がいい子というのは田宮くんのような子を指すのだと、私はしみじみと感じたのを鮮明に思い出していた。
記憶というのは不思議なもので、1つ思い出すと連鎖的に次から次へと蘇る。私は遠い記憶と今を繋ぎ合わせるように問いかけた。