桃ちゃんセンセと田宮くん
【桃side】 4
「なんでよ?」
「ん、聞きたいから。桃ちゃんセンセの綺麗な発音で」
「もう先生じゃないし」
苦笑する私だが、田宮くんは至って真剣だ。
その目は一瞬で私をあの自習室に引き戻す。
自分が立っていた場所、田宮くんの動きに表情。窓の外で聞こえていた救急車のサイレンや、塾の入口付近でザワザワとする生徒の声まで鮮明に再現する。
「We……」
声が震えたのは、最初だけ。私はあの時と同じように、静かに、そして英語を話す時に自然と低くなる声でその一節を諳んじた。
「We are all different, and we are all good. これでいい?」
うんと頷いた田宮くんは今更ながらの指摘をしてきた。
「桃ちゃんセンセ、これ直訳すると、私たちはみんな違っていて、みんな良いになるから、微妙に意味が変わるよね」
「なに? 7年かけて私の英訳にクレーム入れるの? 今更受付ないから」
田宮くんはゆっくり首を振る。