甘やかな契約婚 〜大富豪の旦那様はみりん屋の娘を溺愛する〜



  ***


 新居は、都心の喧騒を見下ろす高層マンションだった。嘉山家の一角に位置するその建物は、ガラス張りの外観が夜の光を反射し、まるで宝石のように輝いていた。

 リビングに足を踏み入れると、天井の高さに圧倒された。大きな窓の向こうには、東京の夜景が広がり、無数の光が瞬いている。
 【みやび】の古い蔵とはあまりにも違いすぎて、ここが自分の住む場所だなんて、まるで現実味がなかった。

 古びた木の香りと味醂の甘い匂いに満ちた蔵。
 そこでは、時間がゆっくりと流れ、祖母の笑顔や職人たちの声がいつもそばにあった。

 だが、このマンションは、冷たく整然とした美しさで満たされている。壁にはモダンなアートが飾られ、家具はどれも高級で、まるで雑誌の1ページのような空間だ。
 私は、蔵の土間に立っている自分を想像してしまい、胸が締めつけられた。ここは私の居場所ではない。そう思わずにはいられなかった。


「部屋は好きに使え。必要なものがあれば遠慮せず言え」


 周寧の声が、リビングに響いた。彼はコートを脱ぎ、ネクタイを緩めながら、淡々とそう告げた。


「……ありがとうございます」


 私が小さく頭を下げると、彼は軽く頷いただけで、自室へと消えていった。扉が閉まる音が、静かなリビングに響き、気配がぴたりと途絶えた。



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