甘やかな契約婚 〜大富豪の旦那様はみりん屋の娘を溺愛する〜
「……どうして、それを……最初に言ってくれなかったんですか」
思わずこぼれた言葉は、まるで彼を責めるような響きになってしまった。だが、心の奥では、ただ知りたかった。彼が【みやび】を愛してくれていたなら、なぜあの夜、冷たく提案だけを突きつけたのか。
彼は、小さく笑う。初めて見る、彼の柔らかな笑顔だった。
「言ったら、お前は俺を信じただろう。だが、俺はただの‘ファン’としてお前を妻に迎えたわけじゃない。【みやび】を救うためでも、借金を肩代わりするためでもない。……お前自身に、価値があると思ったからだ」
胸が高鳴り、息が詰まった。
彼の真意はまだ分からない。だが、その言葉は、私の心に深く刺さった。契約結婚の冷たい枠組みの中で、初めて感じる温もりだった。
私は、皿に残った煮物をじっと見つめる。
【みやび】の味醂が、この家に、こんな形で息づいている。
そして、冷たい旦那様の裏に、確かに温かさがあることを、私は初めて知った。
キッチンの小さな光が、彼の横顔を柔らかく照らしていた。
この新しい生活の中で、私は何を見つけるのだろう。
彼の心の奥に隠されたもの、そして、私自身の未来を。