甘やかな契約婚 〜大富豪の旦那様はみりん屋の娘を溺愛する〜
期待した私が悪いのだけど……せっかく彼のためにと、キッチンで煮物を用意していたのに。
【みやび】の味醂を使い、祖母のレシピを思い出しながら、時間をかけて作った料理だったから自信もあった。
少しでもあの夜の温もりを再現したかった。少しでも、彼と心を通わせたかった。
でも、それを口にする資格なんて、私にはない。そう思って、俯き唇を噛みしめてしまう。
そんな私を見たのか、彼はため息を吐いた。
「……何か言いたそうだな」
鋭い視線に、心臓が小さく跳ねる。
「……いえ、別に」
視線を合わせられず、手を握りしめた。指先が冷たく、震えているのが自分でも分かる。
彼は一瞬、黙り込んだ。そして、どこか苛立ったように、しかし静かに言った。
「君は、もっと自分の意見を言えばいい。黙って従うだけでは、息が詰まるだろう。そんな生活していたら病んでしまう」
「……っえ?」
そんな気遣う言葉が出てくるとは思わなくて驚いてしまった。
「そんなに緊張しなくてもいいんだ。……俺は、形だけの妻を望んでいるわけじゃない」
そう言うと、彼の手が伸びてきて頬に触れた。