甘やかな契約婚 〜大富豪の旦那様はみりん屋の娘を溺愛する〜
その言葉に、行動に、頭が一瞬真っ白になった。
──形だけの妻を望んでいない?
では、彼は何を望んでいるのだろう?私に何を期待しているの?
戸惑いと疑問が渦巻き、言葉が喉に詰まる。彼の瞳は、いつも通り鋭く、まるで私の心を見透かすようだった。だが、そこには、ほんのわずかな温かさも感じられた。あの夜、キッチンで見た彼の姿が、頭をよぎる。
「私は……」
何か言おうとしたが、声が震えて途切れた。
彼にどう向き合えばいいのか分からない。いざ聞かれたらどう話すべきなのかも分からなかった。
結局、その夜も私は何も言えなかった。逃げるように自室に戻り、扉を閉めた途端、涙が溢れた。ベッドに崩れ落ちると、膝を抱えて呟いた。
彼の言葉が、頭の中で何度も繰り返される。
『形だけの妻を望んでいない』
なら、なぜ私を妻に選んだのか。
【みやび】の味醂のため? それとも、別の理由が?
「……私は、金のためにここにいる」
そう呟くと、だんだん悲しくなっていった。
彼の優しさを信じたいのに、契約の重さに押しつぶされそうになる。
窓の外では、夜景が冷たく瞬いていた。
私たちの心は、こんなにも近くにいながら、すれ違ってばかりだった。
この先、どうやって彼と向き合えばいいのか。
私の心は、答えを見つけられないまま、ただ揺れ続けていた。