甘やかな契約婚 〜大富豪の旦那様はみりん屋の娘を溺愛する〜
今夜、彼女が作った味噌汁を口にした瞬間、俺はあの日の紫月の笑顔を思い出した。彼女は変わらない。あの頃と同じ、真っ直ぐな心で、料理に、【みやび】の味醂に、想いを込めている。
つい、愛おしく思えて想いが溢れた俺は「紫月」と、つい名前を呼んでしまった。彼女が驚いたように顔を上げた瞬間、心臓が小さく跳ねた。
あの夏の日の彼女と、今の彼女が重なる。
だが、俺はまだ何も言えない。
彼女が俺を“契約の夫”としか見ていないかもしれないと思うと、胸が締めつけられる。
──いつか、彼女に伝えたい。あの蔵の裏庭で、俺の心を奪ったのが彼女だったと。
だが、今はまだ、その時じゃない。彼女が俺を少しずつでも受け入れてくれるまで、俺は待つ……いや、待ちたい。
彼女の料理に、彼女の笑顔に、俺の心が温まるのを、ただ静かに感じていたい。
窓の外の夜景は、変わらず冷たく瞬いていた。だが、今夜、その光はほんの少しだけ、俺の心に温もりを与えてくれる気がした。