甘やかな契約婚 〜大富豪の旦那様はみりん屋の娘を溺愛する〜
「祖母のレシピなんです。【みやび】の味醂を少しだけ……その、味に近づけたくて」
言葉を選びながら呟くと、彼はわずかに目を細めた。その視線に、胸がドキリと高鳴る。
「そうか。母は、こんな味を愛していた気がするよ」
彼の声は静かだったが、そこには深い感情が込められているように感じられた。私は何も言えず、ただ小さく頷いた。
食事を終えた彼は、いつも通り静かに席を立った。だが、ドアに向かう前に、ふと足を止め、振り返る。
「紫月、今日の夜、時間はあるか?」
突然の問いに、思わず目を丸くする。心臓が小さく跳ね、頭が一瞬空白になった。
「え、はい……あります」
「なら、夕食を一緒にどうだ。外で、だ」
彼の声はいつも通り落ち着いていたが、どこか普段と違う響きがあった。まるで、ほんの少しだけ心の扉を開いたような。そんな気がして、私はただ頷くしかなかった。