甘やかな契約婚 〜大富豪の旦那様はみりん屋の娘を溺愛する〜



 「周寧さん……私たち、契約で結ばれた夫婦だけど、本当にこれでいいのかなって。私の心はあなたでいっぱいなのに、どこかで怖いんです。あなたを愛してるのに、資格がないんじゃないかって……」


 私の声は震え、夕陽に照らされた地面に視線を落とした。言葉にするだけで、胸の奥に溜まっていた不安が溢れ出し、涙が滲みそうになる。
 彼は私の言葉を静かに聞き、穏やかな微笑みを浮かべた。その笑顔は、まるで私の心の傷を癒すように優しかった。そして、彼はポケットから一枚の書類を取り出した。

 それは、私たちの結婚契約書だった。紙には、私たちがこの関係を始めた時の冷たい約束が、黒々とした文字で記されている。
 それを見た瞬間、私の胸は締め付けられ、過去の重みが再び心を覆う。


 「これを、解消しよう」


 彼は静かにそう言い、契約書を目の前でゆっくりと破り捨てた。風に舞う紙片が、夕暮れの空に散っていく。まるで、私を縛っていた過去の枷が、そよ風に運ばれて消えていくようだった。私は驚いて目を丸くし、言葉を失う。胸の奥で、何かが大きく動き出すのを感じた。


 「え……どうして?」


 私の声は震え、信じられない思いで彼を見つめた。彼の瞳は、夕陽の光を受けて柔らかく輝き、深い愛情で満ちていた。その視線に、私は息を呑んだ。


 「契約なんて、もう必要ない。俺は君を、本物の妻として迎えたい。ただ君を愛しているから。紫月、あの日の蔵の裏庭で、君の笑顔に心を奪われた。それ以来、ずっと君だけだった」


 彼の言葉は、まるで私の心の奥に直接響くように、深く、温かく染み込んだ。その一言一言が、私の罪悪感や不安を溶かし、代わりに愛と確信で満たしていく。

 私は涙が滲み、言葉を詰まらせた。胸の奥で、ずっと閉じ込めていた感情が溢れ出し、抑えきれなくなる。彼の真っ直ぐな愛の前で、私の恐れはあまりにも小さく、脆いものに思えた。


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