長すぎた春に、別れを告げたら
「なんだよそれ。ひっそりと想ってるだけでいいって、そんな悠長なことを言っていられるような年齢じゃないだろ」

治久はばかにするように声を歪めた。

たしかに私はもう二十八歳だ。けれどずるずると結婚を先延ばしにしていた治久にだけは罵られたくない。

「……とにかく、そういうことだから」

言い争いをするのは無益だと、強引に話を終わらせた。

治久に背中を向けたとき、私は自分の目を疑う。

「え……?」

すぐそばで相良さんが当惑した様子で私たちを見ていた。

どうして私の会社の近くに? 訪問は月に一回のはずではなかったのだろうか。

「もしかして、今の会話を聞きましたか……?」

恐る恐る尋ねると、相良さんは気まずそうにする。

「……まあ、少し」

少しってどれくらい?

パニックに陥りそうになった。

「すみません、今のは――」

「こいつが萌歌の好きな男なのか?」

治久が割り込んできた。

目が泳いだ私に、治久はその通りだと捉えたようだ。

「ちょうどよかったじゃないか。さっさと気持ちを伝えてばっさり振られたらいい。そうしたら現実と向き合えるだろ」

とんでもない提案をしてくる治久に、私は呆気に取られそうになる。
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