長すぎた春に、別れを告げたら
苦笑いしてスマートフォンを手に取ったとき、勝手に電源が落ちているのに気がつく。この頃動作が重いと感じたり、フリーズしたりする。水没させたわけでも強い衝撃を加えたわけでもないので経年劣化だろう。

経年劣化。まるで私と治久みたい。

そういえば昨日の夜以降、治久から連絡が来ていない。さすがにそろそろ見切りをつけたのだろうか。

「どうしたの、萌歌」

スマートフォンを触っていると、希帆さんが覗き込んできた。

「スマートフォンが壊れそうです」

「えっ、大変。今日仕事終わりに買いに行きなよ。連絡が取れなくなったら困るし」

たしかに私はひとり暮らしで固定電話もないし、なにかあったら問題だ。仕事に影響を及ぼすだろう。

定時の午後五時半にオフィスを出て、エレベーターに乗る希帆さんや雫ちゃんと別れる。ひとりで階段に向かうと、踊り場にスーツ姿の長身の男性が立っていた。

五階まで階段を上がってくる人は珍しく、ここで誰かに会うことは滅多にないので、思わず顔を見つめる。

「相良さん?」

彼の次の訪問日は二週間後のはずだ。

「よかった。会えた。ビルのエントランスだと目立つし、きっと今日も階段を使うだろうと思って、ここであなたを待っていたんです」
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