長すぎた春に、別れを告げたら
「萌歌、おはよー」

「おはようございます、萌歌さん」

「希帆さんと雫ちゃん、朝からどうしたんですか?」

通勤用のリュックをおろしながら尋ねた。オフィスに入った瞬間、ふたりがフリーアドレスデスクに集まってはしゃいでいるのが一目でわかったからだ。

ここでは事務員の席を固定せず、自由に移動できるワーキングスタイルを取っている。

おしゃれなペンダントライトが灯るオフィスは内装にもこだわっていて、リラックスして仕事に取り組めるように工夫されている。

「受付の三ノ宮(さんのみや)さんに聞いたんだけど、今日は相良(さがら)さんが来るらしいよ」

希帆さんは声を大にした。

「相良さん?」

知らない名前だったので首をかしげた。

社外の人だろうか。男性なのか女性なのかさえ見当もつかない。

「萌歌ったら普段からあたしの話、全然聞いてないんだから。四月からうちの会計顧問に着任した公認会計士の先生よ」

そういえば、新年度に入ってA:ROOMの会計顧問が初老のおじいちゃんから若い男性になったと言っていたような。

どうやらその人が相良さんという名前らしい。

訪問は月に一回程度で、私たちがいるオフィスとは別室で監査業務をおこなうため、私はまだ見かけたことがなかった。

希帆さんと雫ちゃんは、先月偶然顔を合わせたらしい。
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