皆に優しい幸崎さんは、今日も「じゃない方」の私に優しい
 冷房のきいた暗闇の中、断末魔が響き渡る。
 映画のタイトルは『パニックナイト・ラブストーリー』。そう、恋愛映画だった筈。なのにどうして画面一杯に泣き叫ぶ男女が映し出されているのだろう。
 私は幸崎さんの隣に座った私は、暗闇の中ポップコーンを食べるふりをして震える手を隠していた。

「……佐倉さん、大丈夫?」

 隣から聞こえてきた幸崎さんの声に、私はビクッと跳びはねた。

「はい、大丈夫です……」
「本当に?さっきからずっと身体が震えているよ?」

 次の瞬間、スクリーンに不気味な怪物の顔が大きく映し出された。

「ひっ!」

 思わず悲鳴をあげそうになり、私は咄嗟に両手で顔を覆った。

「佐倉さん、これ…城山さんが観たいって言ってた映画だよね?」
「はい……」
「もしかして、ホラー苦手?」
「……はい」

 恥ずかしさのあまり顔を覆ったまま幸崎さんに答えると、彼は優しい声で笑った。

「だったら、無理して観なくてもいいんだよ」
「でも……」
「じゃあ、怖かったら……」

 そう言うと、幸崎さんは私の手を取った。筋張った男らしい彼の指先が、私の震える手を包み込む。

「怖かったら、俺の手を握っていていいから」

 その言葉に顔を上げると、暗闇に浮かび上がる幸崎さんがいつも以上に柔らかな表情で、こちらをじっと見つめている。

「えっと……じゃあお願いします」

 遠慮がちに手を繋ぐと、包み込む指に力がこもる。スクリーンからは、不気味な悲鳴や効果音が聞こえてくる。けれど幸崎さんの大きな手は、恐怖心を追い払い、代わりに私の心を守る様にしっかり包み込んでくれた。
 スクリーンの映像はもう全く気にならなくない。その代わり近くなりすぎた彼との距離に、別の意味で私はドキドキしっぱなしだった。
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