皆に優しい幸崎さんは、今日も「じゃない方」の私に優しい
 それから私は橘さくらの言葉が頭から離れず、午後の仕事に集中できずにいた。幸崎さんが彼女に優しくするのは、私に優しくするのと全く同じ。彼だからこその、平等な優しさというものなのだろうか。
 昨日まで感じていた喜びやときめきは、もしかしたら全て私の勘違いだったのかもしれない。そう考える度になぜか胸に鈍い痛みが走った。
 
 夕方、私は企画書を印刷するためにプリンタコーナーへと足を向けた。するとその途中のミーティングスペースでは、幸崎さんがグループディスカッションを行っていた。
 真剣そうに話をしているその姿に見惚れていると、幸崎さんとぱちん目が合ってしまった。咄嗟に目を逸らそうとすると、幸崎さんはさり気ない笑顔を見せて、こちらに向けて小さくヒラヒラと手を振った。
 
 他の人にはわからない、私だけに送られる特別な仕草。

 そう思うと、胸の鼓動が早くなる。顔が真っ赤に染まっていくのを感じながら、私は慌ててぺこりとお辞儀すると急いでその場を駆け抜けた。ドクドクと全身は、激しく脈を打っていた。

(どうして幸崎さんの事を考えると、こんなに心が乱れるんだろう……)
 
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