皆に優しい幸崎さんは、今日も「じゃない方」の私に優しい
 定時終わり、慌ただしく雪に連れられやってきたのは、駅前の高級百貨店だった。きらびやかな化粧品フロアの中でも一等地、有名コスメブランドのカウンターに半ば強引に座らされた私は、美容部員さんからの商品説明を聞いていた。

「ちょっと……ここって予約必要なんじゃないの?いつ連絡したのよ」
「そこはまあ、昼休み終わりにチャチャっとね」

 誇らしげにVサインを送る雪に呆れながら、私はされるがままに目の前の鏡を見つめていた。肌にファンデーションがのせられて、柔らかいブラシで眉がふわりと描かれていく。

 「お客様は肌のキメが細かくていらっしゃるので、それを生かしながらもう少しだけ血色よく仕上げてみましょう」

 美容部員さんの滑らかな声と、繊細な指先の動き。カタカナだらけのアイテム名が、まるで魔法の呪文のように耳に響く。

「はい、ではこれで完成です」 
 
 そうして二十分後。
 鏡の中に映し出されたのは、健康的で溌剌とした印象さえ受ける、まるで知らない誰かだった。

「これが、私…?」

 思わず呟いた私に、隣の雪が目を丸くして叫んだ。
 
「すごっ!めっちゃ美人じゃん!変わるだろうとは思ってたけど、ここまで劇的なのはびっくりだね!」

 興奮する私達に、美容部員さんもどこか誇らしげに微笑んでいる。
 化粧を変えただけ。ただそれだけなのに、ここまで印象が変わるなんて信じられない。
 心臓がドキドキと高鳴るのを感じながら鏡から視線を少しずらすと、卓上に並んだ色とりどりのテスターが目に飛び込む。

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