冷徹御曹司は誤解を愛に変えるまで離さない
第八章 近づく距離と残る壁
帰国のフライトは、妙に静かだった。
隣に颯真がいるのに、言葉はほとんど交わされない。
彼は資料を眺めるふりをして時折私を見やる。その視線に気づくたび、胸がざわついた。
──美沙さんの言葉が本当なら、私はずっと勘違いをしてきたことになる。
でも、彼の冷たい態度や短い言葉は、全部不器用さのせい……?
そう簡単に、信じきれるはずがない。
帰国後、同居生活が再開した。
以前よりも、颯真の態度ははっきりと変わっていた。
私が帰宅する時間を合わせたり、仕事終わりに「送る」と言い出したり。
それでも私は、無意識に距離を取ってしまう。
「今日は早かったな」
「ええ、仕事が片付いたから」
「……なら、一緒に夕飯に行こう」
「……急に?」
「駄目か?」
ほんの一瞬だけ見せた不安そうな目に、言葉を詰まらせる。
──駄目じゃない。むしろ、行きたい。
けれど、その一歩を踏み出すのが怖い。
「……また今度にしましょう。疲れてるから」
颯真は何も言わず、小さく頷いた。
けれど、その手がわずかに握りしめられているのを見てしまう。
数日後、社交界のパーティーがあった。
会場に着くと、すぐに数人の男性が声をかけてくる。
軽く会釈してやり過ごそうとしたとき、背後から低い声が響いた。
「……離れろ」
振り返ると、颯真が私の腰を強く引き寄せていた。
驚きと同時に、周囲の視線が集まる。
「婚約者に手を出すな」
その一言で場の空気が凍る。
相手の男性が退散していくのを横目に、私は押し殺した声で言った。
「……人前でこんなこと、やめて」
「嫌だ。……お前が誰かに取られる方がもっと嫌だ」
耳元に落ちた低い声に、心臓が跳ねた。
けれど、まだその言葉を完全には信じられない。
夜、部屋に戻っても、さっきの声が耳に残っていた。
信じたい。
でも、信じてもし裏切られたら、私はきっと立ち直れない。
──だから、もう少しこの距離を保っていたい。
そんな弱さが、また二人の間に壁を作ってしまうのだった。
隣に颯真がいるのに、言葉はほとんど交わされない。
彼は資料を眺めるふりをして時折私を見やる。その視線に気づくたび、胸がざわついた。
──美沙さんの言葉が本当なら、私はずっと勘違いをしてきたことになる。
でも、彼の冷たい態度や短い言葉は、全部不器用さのせい……?
そう簡単に、信じきれるはずがない。
帰国後、同居生活が再開した。
以前よりも、颯真の態度ははっきりと変わっていた。
私が帰宅する時間を合わせたり、仕事終わりに「送る」と言い出したり。
それでも私は、無意識に距離を取ってしまう。
「今日は早かったな」
「ええ、仕事が片付いたから」
「……なら、一緒に夕飯に行こう」
「……急に?」
「駄目か?」
ほんの一瞬だけ見せた不安そうな目に、言葉を詰まらせる。
──駄目じゃない。むしろ、行きたい。
けれど、その一歩を踏み出すのが怖い。
「……また今度にしましょう。疲れてるから」
颯真は何も言わず、小さく頷いた。
けれど、その手がわずかに握りしめられているのを見てしまう。
数日後、社交界のパーティーがあった。
会場に着くと、すぐに数人の男性が声をかけてくる。
軽く会釈してやり過ごそうとしたとき、背後から低い声が響いた。
「……離れろ」
振り返ると、颯真が私の腰を強く引き寄せていた。
驚きと同時に、周囲の視線が集まる。
「婚約者に手を出すな」
その一言で場の空気が凍る。
相手の男性が退散していくのを横目に、私は押し殺した声で言った。
「……人前でこんなこと、やめて」
「嫌だ。……お前が誰かに取られる方がもっと嫌だ」
耳元に落ちた低い声に、心臓が跳ねた。
けれど、まだその言葉を完全には信じられない。
夜、部屋に戻っても、さっきの声が耳に残っていた。
信じたい。
でも、信じてもし裏切られたら、私はきっと立ち直れない。
──だから、もう少しこの距離を保っていたい。
そんな弱さが、また二人の間に壁を作ってしまうのだった。