冷徹御曹司は誤解を愛に変えるまで離さない

第七章 噂の真実

 海外支社に着いてから一週間。
 慣れない環境と忙しさに追われ、時差ボケも抜けきらないまま日々が過ぎていった。
 ──彼のことを考えない時間が増えると思っていたのに、不意に浮かぶのは颯真のあの声、あの目。

 そんなある晩、支社長主催のレセプションに招かれた。
 会場の照明がきらめく中、視界に入った一人の女性に、思わず息を呑む。
 ──美沙さん。
 颯真の“本命”だと噂されている、あの人。

「まあ、美玲さん。こんなところでお会いできるなんて」

 優雅に微笑む彼女に、私は硬い声で挨拶を返した。

「お久しぶりです……」

「颯真から聞いているわ。海外出張中だって」

 さらりと名前を口にされて、心がざわつく。
 ──やっぱり特別な関係だから、こうやって近況を共有しているんだ。

 そんな私の表情を見透かしたように、美沙さんはワイングラスを置き、少し真剣な声になった。

「あなた、まだ勘違いしているわね」

「……え?」

「私と颯真は、従姉弟よ。小さい頃から兄妹みたいに育っただけ。噂なんて全部、周囲の憶測。……彼がずっと想っているのは、あなたよ」

 頭が真っ白になった。
 噂が嘘? じゃあ、あの視線も、あの言葉も……。

「信じられない?」

「……だって、彼は……冷たくて、何を考えているのか分からなくて」

「不器用なのよ。特に、あなたのことになると」

 その一言が、胸の奥で何かを揺らした。



 ホテルの部屋に戻ると、スマホが震えた。
 画面に映る名前に、心臓が跳ねる──颯真。
 メッセージは、たった一行。

《ロビーにいる》

 急いで降りると、そこにスーツ姿の颯真が立っていた。
 長距離移動の疲れも見せず、真っ直ぐに私を見ている。

「……どうしてここに?」

「迎えに来た。お前を、これ以上遠くに行かせたくない」

 その低い声に、心臓が跳ねた。
 けれど、口をついて出たのは疑いの言葉だった。

「……義務感で?」

「違う」

 一歩詰め寄った颯真が、私の肩をしっかりと抱く。

「俺はずっとお前が欲しかった。婚約も、全部俺が望んだ。……お前以外、最初から眼中にない」

 その言葉の熱が、胸の奥深くに突き刺さる。
 信じたい──でも怖い。
 ずっと作り上げてきた“嫌われている”という殻が、今にも壊れそうで。

「……帰ろう。俺と一緒に」

 その声に、もう頷くしかなかった。
< 9 / 19 >

この作品をシェア

pagetop