野いちご源氏物語 三六 横笛(よこぶえ)
ご自宅の三条邸にお帰りになると、窓などはすべて閉められて寝静まっている。
「未亡人になられた女二の宮様を気にかけて、ずいぶん熱心にご訪問なさっているようです」
とご正妻に申し上げた女房がいたの。
夜遅くまで外出なさっているのもご正妻には憎らしくて、お帰りになったと聞いても寝たふりをしていらっしゃる。
「どうして閉めきっているのです。よい月夜だというのに」
大将様は文句をおっしゃって、窓を開けさせなさる。
簾も巻き上げて、月が見える縁側に横たわりなさった。
「こんな夜に月ではなく夢を見ていてはいけませんよ。ここまで出ていらっしゃい」
ご正妻の雲居の雁をお呼びになるけれど、浮気にすねていてお聞きにならない。
座りなおしてあたりを見回してごらんになると、幼いお子たちがあちこちで眠っていらっしゃる。
女房たちもその間で寝ていて、とにかく人気が多い。
女二の宮様のお屋敷とは正反対なの。
先ほど御息所からいただかれた笛をお吹きになる。
<私が帰ったあと、あちらはどうしていらっしゃるだろう。しみじみと合奏のつづきをなさっているだろうか。御息所も和琴がお上手だと聞いたことがある>
思い出しながらもう一度横になってお考えになる。
<なぜ衛門の督は女二の宮様を表面上大切にするだけで、深く愛さなかったのだろう。よほどご器量がお悪いのかもしれない。だとしたらお気の毒だが、評判のよい女性ほどそういうことがあるものだから>
ご正妻がこちらへお越しになる気配はない。
<雲居の雁と結婚してもう十年か。これまで何の浮気もしてこなかったのだから、思い上がってかわいげのない態度をとるのも仕方がないのだろう>
と見ておられる。
実は惟光の娘にもお子をたくさん生ませていらっしゃるけれど、ご正妻とは身分が違いすぎる恋人だから、あちらのことは浮気というほどには思っておられないのでしょうね。
でも、さすがに女二の宮様とご結婚ということになれば、ご正妻も平気ではいらっしゃれないはずよ。
「未亡人になられた女二の宮様を気にかけて、ずいぶん熱心にご訪問なさっているようです」
とご正妻に申し上げた女房がいたの。
夜遅くまで外出なさっているのもご正妻には憎らしくて、お帰りになったと聞いても寝たふりをしていらっしゃる。
「どうして閉めきっているのです。よい月夜だというのに」
大将様は文句をおっしゃって、窓を開けさせなさる。
簾も巻き上げて、月が見える縁側に横たわりなさった。
「こんな夜に月ではなく夢を見ていてはいけませんよ。ここまで出ていらっしゃい」
ご正妻の雲居の雁をお呼びになるけれど、浮気にすねていてお聞きにならない。
座りなおしてあたりを見回してごらんになると、幼いお子たちがあちこちで眠っていらっしゃる。
女房たちもその間で寝ていて、とにかく人気が多い。
女二の宮様のお屋敷とは正反対なの。
先ほど御息所からいただかれた笛をお吹きになる。
<私が帰ったあと、あちらはどうしていらっしゃるだろう。しみじみと合奏のつづきをなさっているだろうか。御息所も和琴がお上手だと聞いたことがある>
思い出しながらもう一度横になってお考えになる。
<なぜ衛門の督は女二の宮様を表面上大切にするだけで、深く愛さなかったのだろう。よほどご器量がお悪いのかもしれない。だとしたらお気の毒だが、評判のよい女性ほどそういうことがあるものだから>
ご正妻がこちらへお越しになる気配はない。
<雲居の雁と結婚してもう十年か。これまで何の浮気もしてこなかったのだから、思い上がってかわいげのない態度をとるのも仕方がないのだろう>
と見ておられる。
実は惟光の娘にもお子をたくさん生ませていらっしゃるけれど、ご正妻とは身分が違いすぎる恋人だから、あちらのことは浮気というほどには思っておられないのでしょうね。
でも、さすがに女二の宮様とご結婚ということになれば、ご正妻も平気ではいらっしゃれないはずよ。