『その秀女、道を極まれり ~冷徹な親衛隊長様なんてこうして、こうよっ!!~』
別に変な事を言ったわけではない。もう間もなく集まる時間で、見渡す限りほとんどの秀女たちが集合場所へ向かっている。
「琳華様もご存じかと思われますが一応、一番狭い個室が与えられてるけれど……ねえ。侍女も連れてきていらっしゃらないし」
丹辰の取り巻きの秀女たちがこぞって綺麗な顔をしかめながら「だってあの子、どんくさいと言うか。あまり健康的でもなさそうですし」とまるで琳華に告げ口でもするように声を潜めながら随分な言い方をする。
「きっと緊張なさっているのかもしれません。少し、わたくしが見て参りますね。梢、表札を探してくれるかしら」
「はい、お嬢様」
「あっ、琳華様お待ちになって」
丹辰の引き留める声を払い、琳華は少し気になっていた愛霖の部屋を探す。それはすぐに丹辰が「一番奥のお部屋ですわ」と言ってくれたおかげで時間を取らずに見つけられた。
「愛霖様、周琳華です。お姿がまだ見えないので伺った次第なのですが」
最年長者が下の年齢の者の面倒を見るのは当たり前であるが琳華の後ろではついて来た丹辰たちが「止めましょうよ」などと引き留めようとする。
「愛霖様は昨日も少し調子が悪かったようなの。ですから……ね、わたくしは」
年長者を立てて欲しいとそっと言う琳華に丹辰やその取り巻きたちは顔を見合わせると何か言いたげであったが引き下がってくれた。
「琳華様、わたくしたちは先に……」
「ええ。わたくしも遅れないようにしますから」
愛霖の部屋からそこまで離れてもいないのに「お人よし」や「お節介」とあがる声を無視して琳華はもう一度、丹辰の部屋に声を掛けながら軽く扉を叩く。するとばたばたとした音の後に愛霖本人が扉を開けた。
「も、申し訳ありませんっ。準備に手間取ってしまって」
出て来た愛霖は疲れた様子だったが午前の座学の時とは違う質の良い濃い空色の羽織に着替えていた。彼女は侍女を連れてきていない。その場合は寄宿楼についている下女が手伝ってくれるがどうやら申し出ていなかったようで……少しだけ見えた部屋の奥に人の気配は無かった。いれば、下女の方が取り合ってくれるはずだ。
しかし琳華は見てしまった。
ほんのちらり、なのだが――他の秀女の一人部屋の内装を。
(偉明様が仰った意味が裏付けられてしまったかも……ではなくて)
自分の部屋とまるで違う内装に気を取られたがもう集合場所に向かえる、と言う愛霖を琳華は見る。
「お加減は大丈夫そうですか?」
「はい。琳華様のような御方に心配をおかけしたようで申し訳ございません」
何度も平謝りする愛霖に「いいのよ」と、それはごく当たり前の行動なのだと琳華は声を掛ける。ほんのり甘い香の匂いがする愛霖もすっと背筋を伸ばしたので琳華ももう大丈夫だろうと思い、廊下の先を見た時だった。丹辰がとても鋭い視線でこちらを振り返って見ていたのだ。
ここは、そう言う場所。
だから一々気にしてなどいられない。