『その秀女、道を極まれり ~冷徹な親衛隊長様なんてこうして、こうよっ!!~』
「わたくしが午前の座学を受けている間、寄宿楼を管理する下女の方々に探りを入れて欲しいの。わたくしたちが作って持って来た甘い物があるでしょう。全て渡し切っても構わないわ」
「承知いたしました。その内容は」
琳華は最終的に秀女の人数がどれくらい絞られるのかについて、そして他の秀女の滞在の様子を噂話程度でも構わないし、他にも梢の思いつきでも構わないから全体的な状況を把握する為の情報収集をして欲しいと頼む。
「そうね……特に利発な方に見える伯丹辰様あたりかしら。何か行動をしようとした時、味方や擁護してくれる人物は多い方が良い。けれどそれはご自分の手で負える範囲で、と随分と存じていらっしゃると言うか……手慣れてる」
琳華はあまり自覚していないようだが、彼女は他人の機微によく気がついている。
ただ琳華自身、その高い能力を自覚していないのでそばにいる梢が支える役割をよくしているのだが……先ほど、偉明にからかわれたのか頬を真っ赤にさせていた主人は考え事のお陰ですっかりいつもの冷静さを取り戻したようだった。
「偉明様はわたくしのあれやこれやをご存じみたいだけど……でも偉明様って本当はどのような御方なのかしら」
「ではそれについても探っておきますね」
「ええ、頼みま……っ?!」
「この絽梢にお任せください」
「え、ちょっと」
「ぐふふ、お嬢様の為ならばぁ~……うふふ」
琳華からのお下がりの衣裳の裾を揺らすご機嫌な梢がぴた、と動きを止める。
「あ、思い出しました!!」
急な言葉に琳華も不思議そうな表情をするが梢は「表立って言えない時の秘密の言葉を作るんでしたよね」と問う。
確かに、本当なら昨日の内にでも梢と話し合うつもりだったのだが偉明が来てしまい、頓挫していた。
「確かに……皇子様のお名前と、偉明様についても」
「どうしましょうか」
「皇子様は東宮様、あるいは春宮様とお呼びになることもあるから……春の御方、は安直すぎるかしら」
「お嬢様と私が分かれば良いだけですからよろしいかと」
「それで皇子様が春とすると」
偉明は冬だ。
温和そうな面立ちや優しそうな気質が伺えた宗駿皇子と相反するような偉明の冷たさ。冷たいと言うか、痛い。彼は時に肌を刺すような冷たさがある男性だ。
また先ほどの事を思い出してしまい、少しだけ唇の先を尖らせた琳華は「やっぱり分かりやすいから冬にしましょう」と梢に言う。
「大体、わたくしは私生活など他の方にお話ししていないのに一方的にあれこれと」
思い出し、憤慨している琳華はまた弾力のある綿が詰まった肘置きをぎゅうぎゅうと腕でシメ……抱いていた。