『その秀女、道を極まれり ~冷徹な親衛隊長様なんてこうして、こうよっ!!~』
第6話 勝てば官軍、ヤったもん勝ち

 周琳華に通行証が渡されて二日後のこと。

 真相を知らない秀女たちは昨日からずっとざわめいた。いくら彼女が最年長で、家柄も申し分ないとは言え自分たちの中では地味な振る舞いが多い。厳しい意見をすれば積極性を欠いているようにも見える。
 それなのに事実上の秀女たちの筆頭の扱いだ。先日も家具が良い物に取り換えられているのを見ている。

 しかしそれを女官に抗議をしたとて覆らない。どれだけカネを積んだのか、と朝方に瞬間的に噂が立ったがそれは夕方には立ち消えた。琳華は後宮に住まう女官たちから評判が良いため、本当にすぐに噂は消えてしまった。

 秀女たちにどれくらいの体力があるか見極める為に案内として庭を暫く歩かせた時も琳華は一人だけ、なんでもないような顔をして文句のひとつも囁かなかった。それに後方で後れをとりそうになっている別の秀女に声を掛けていたのも女官たちはしっかりと見ていた。
 急な謁見があった際にも彼女は自分の美しさを理解した装いで格式高い渋い色の羽織にきりっとした華のある化粧を……つまり周琳華は文句の付けどころがない手本のような女性だった。

 気質なのか、少々控え目な振る舞いはしているが肝心な所はしっかりと外さない。官職以下の下働きの下女からも評判はすこぶる良く、小言もなく怒鳴ったりもしないし配膳の礼としていつもにこっと笑いかけてくれると各部署の女官は報告を受けている。

 「お嬢さまぁ、今日は休養日ですし少し横になられた方が」

 しかし当の本人は目が死んでいた。
 どうしても帯の所で揺れる白い組紐が人目をひいてしまうのだ。それに一昨日、よくよく思い返してみれば偉明を前にして、ちょっとだけやらかした。

 「完璧な秀女であれば……いずれ勝手に……よくない者が擦り寄ってくる、と……偉明様(冬の御方)から言われてそう振る舞っているつもりだけれど……うう……たかが一日、二日でこんなにも色々な方の視線に……んうううう……」

 半ば偉明に見立てた肘置きを胸に抱えてぎゅうぎゅうと締め上げている琳華は「これらは宗駿皇子様(春の御方)の為なのに」と改めて後宮での生活は針のむしろの中にいるのと同じと感じてしまう。

 「でも、ね……小梢。これしきのこと、秀女たるもの、よね」

< 48 / 87 >

この作品をシェア

pagetop