『その秀女、道を極まれり ~冷徹な親衛隊長様なんてこうして、こうよっ!!~』
第7話 あなたを信じ、頼ること
仮の入宮から八日――周琳華の振る舞いは一部の後宮内部で噂になっていた。
秀女筆頭としての所作や本来ならば蹴落として当たり前である者にも平等に接する。その肝の落ち着きや視野の広さはやはり選ばれただけある、と言われていた。
その一方では結構なじゃじゃ馬だったとか、そんな話も僅かに流れたが琳華と梢、そして偉明たちも後宮が必要とする正室、側室候補としての『おしとやかで聡明な周琳華』の印象を着々と周囲に定着させていった。
じゃじゃ馬だったと言う話は妬みによる憶測から来ているらしいが実際、今なお現在進行形で彼女のまことの姿である。
「わたくしだって頑張っているのに……それだと言うのにあの冬の御方はまだ修行が足りぬだのなんだのと」
そんな朝。今日も相変わらず主人は美しい、と髪を結っていた梢は琳華が後宮に逗留してからと言うもの、その美しさについて今までとはまた違った雰囲気を感じていた。箔が付いた、と言うかおしとやかさの中にある堂々とした立ち居振舞いは特に女官たちに受けがよく。その下で働く年若い下女たちからも自分たちをぞんざいに扱わない琳華にきらきらとした視線を向けてくれる。
彼女たちも梢が生き生きと元気に主人に仕えているところを見て、憧れを抱いている者もいるらしい。
それでも当の琳華はふらりと寄った偉明にまたチクチクと言われたらしい言葉を反芻しながら愚痴を言っている。
「それに、冬の御方のお話はスジが通っているのがさらに憎たらしいと言うかなんというか心が、こう……こう!!」
「後宮の事も随分と教えていただきましたが……」
すっかり愚痴の友となってしまった肘置きをぎゅうと締め上げる琳華だったが梢は不意に気がついた。よく気の回る彼女はこの主人の美しさが加速している要因に異性であり歳の近い偉明の存在があるのでは、と。最初から彼は琳華を心が自立した一人の大人として見ていてくれたがそのお陰か本当に主人は気高い女性となっていた。
「お嬢様は秀女としてとてもご立派にお役目を務められていらっしゃいます。その行いのお陰で侍女の私も宮女の方から良くしていただいてるんですよ」
「それはわたくしではなく小梢の交渉話術や上手な甘い賄賂の使い方のお陰よ。いつも母上は小梢は買い物上手だ、とおっしゃっているわ。普段のお使いのお金も、全部ちゃんと帳面につけているし」
今回は全て、周家で育って来たからこそ遂行出来ているのだと二人はそれぞれに思う。黙っていても考えは通じているような琳華と梢。今日は少し派手に髪を結い上げて大ぶりの飾りの簪を挿し入れる。
そんな今日は再び、皇子との謁見の予定が入っていた。
秀女は残り八名のまま維持されているがもはや伯丹辰とその取り巻きたち、孤立している二名に劉愛霖、そして琳華しか残っていなかった。最初の人数が十二名、そこまで厳しく人数を絞っているわけでもないが今回の謁見は距離が近いとのことでいよいよ、と言うわけだ。
今までは流石に非公式だったが今日は皇子も正式に公務としてこなす、と偉明から聞かされている。
「本日の謁見、お嬢様はともかく例のその二つのお家柄の……大丈夫なのでしょうか」
「他の秀女を入れずに対面、とは言えすぐ裏手に冬の御方々が控えていると聞いたから」
「では物理的に接触と言うか、女人の云々と言うのはあまり」
「そうね。春の御方も武芸に秀でていらっしゃるみたい。日頃から鍛錬をされているとなると色仕掛けとかそう言うチャチな事もあまり通じない気がするのだけど」
化粧もあとは紅を乗せるだけとなっていた琳華は手鏡を手に取って自分の見た目を確認する。
「秀女たるもの、手を抜いてはいけない」