『その秀女、道を極まれり ~冷徹な親衛隊長様なんてこうして、こうよっ!!~』
まるでそれは深く自分に暗示を掛けているようだった。
謁見は一日で済ませるそうだ。まとまった時間を作ろうとしたら一日に詰め込むことになってしまった、と偉明が教えてくれていたが女官たちはそれを知っていても秀女たちには伝えられていない。偉明本人や事情を知る使者などからもたらされる情報なのだから余程、何か喫緊の予定さえ入らなければ変更はないとされているが――今日は抜き打ちの面と向かっての顔合わせだ。
謁見自体は以前、紗の布ごしで行われたこともあったがそれは前日には通達されていた。
今回はそれがない。
つまり、普段から正室や側室に相応しい身綺麗な格好をしているかどうかも皇子の目を通して見極められる。
「小梢、今日はどうやら本当に春の御方とサシでお茶をするようなのよ」
「お目通りだけではなくお茶もっ?!そんな、ガチのタイマンじゃないですか」
「ええ」
「うわわわわ。てっきりまたご挨拶だけかと……ではそうですね、気合いを入れ過ぎても情報がどこからか漏れているとバレちゃいますから……口紅はいつも通りの控えめな方にしましょうか」
うん、と頷く主人の為に淡い色合いの方の紅を梢は用意する。
朝の空気を入れようと細く開けてある窓からそよそよと風が吹き込むと着替えの場所に目隠しの為に立てかけられている衝立の端に提げてあった香嚢が少し揺れるのを琳華は見た。
迷惑を掛けた謝罪とお礼を兼ねた愛霖からの贈り物。布も粗目な絹だが悪い品ではない。この香りも女性らしく甘くも爽やかな柑橘の香りを混ぜてくれた。そんな思いやりのある彼女の心に悪意などないように感じてしまう。
「わたくしの順番は一番最後とのこと。今回は分かりやすいように年齢順だと冬の御方はおっしゃっていたけれど」
大抵、この手の話をするときは外に聞こえないように梢が髪を結ってくれていたり化粧をしてくれていたり、とすぐそばにいるとき。それでも琳華の声も流石に密やかになる。
「いつ何時も秀女たれ、ね」
「お嬢様はいつでも素敵ですけどぉ」
「もう……ふふっ、私はお世辞でも言ってくれる小梢が大好きよ」
「お世辞じゃありませんよぅ」
偉明の指示により入宮初日と比べるとかなりマシになった二人の布団部屋は今日も密かに華やかだったが――その一方、連なる部屋の幾つかでは朝食もそこそこに自らを着飾る秀女たちの疲労から来る重い溜め息がいくつも見受けられていた。