東雲家の御曹司は、わさびちゃんと新婚蜜月中

プロローグ

  

「ではまた、金曜日に」

「ああ、また金曜日に」


 結婚前から数えると、すでに80回も口にしている、お互いに言い慣れたセリフ。

 毎週月曜日、わさびは紀糸を新千歳空港まで見送るのが朝のルーティン。

 幾度となくキャンセルを繰り返した結果、いつの間にか、紀糸は東京行きを日曜の夜の便から月曜日の朝の便に変更していた。


「……」
「……」

 すでに見慣れた出社前のスーツ姿の紀糸と、ノーザンのツナギ姿のわさび。

 飛行機の搭乗ランプがついているのに、なんとなく離れがたいのも、すでに80回目。


「……4日なんてあっという間だ」

「別にわさびは何も言ってません」

 自分に言い聞かせるように、わさびの頬を右手でムニムニしながら呟く紀糸。

「そうか? 俺は毎週4日間、愛する妻の寝顔を見れなくて寂しいぞ」

「……紀糸は頭の中と口から出る言葉が同じです」

 紀糸はフッと笑い、わさびを抱き寄せる。これもいつもの事。
 
「わさび、行ってくる。すぐ戻るからな」

 そう言って身体を離す紀糸のネクタイを掴んで、わさびは人目も憚らずブチュッとキスをする。これもいつもの事。

「行ってらっしゃい、アナタ(・・・)

「……」

 今日は80回目だから、わさびはいつも言わないセリフをサービスした。

「……次の便にしようか迷うな」 

「駄目です」

 次の便にして、それまで何をしようというのか。

「……」

 わさびは後ろ髪を引かれる様子の紀糸の背中を両手で押して行き、無理矢理搭乗させた。

 1人になった後、紀糸が乗った機体を眺めながら、無事に飛び立ち、見えなくなるまで見送る。


「……行っちゃった」


 ───パンッ!

 わさびは両手で頬を挟むように叩き、気合いを入れる。

 これもいつもの事。
 わさびの1週間が始まる。


  
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