東雲家の御曹司は、わさびちゃんと新婚蜜月中
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朝、窓を開けると、風が森の匂いを運んでくる。
鳥の声が遠くで重なり、自然が先にしゃべり出す。ここでは、季節の変化がニュースよりも早く届く。
北の果て、北海道にあるノーザン・メモリアルパーク、通称ノーザンは、そんな場所だ。
静かに、確かに、日々その歴史を刻んでいる───
ノーザンメモリアルパークを運営する法人、Northern Fantasia Inc.《ノーザンファンタジア》の代表である旧姓 神楽 山葵は、今や五大財閥の筆頭である東雲家の御曹司であり、東雲ホールディングスの代表、東雲 紀糸と紆余曲折の末に結ばれた。
そんな二人の結婚式から二ヶ月───……秋から冬への移ろいがはっきりと感じられる季節、11月。
その日、ノーザンのカフェにはリクルートスーツに身を包み、緊張した面持ちの三名の男女が待っていた。
そしてもう一人、ひときわ目を引く整った容姿の男がいる。彼は不機嫌そうに椅子の背もたれに身体を預けていた。
日々成長を続けるノーザンでは、新事業に向けて新たな仲間を募っていた。そしてこの日はその最終面接の日。カフェでオーナーと直接対峙する形式の集団面接だ。
「皆さんお待たせしました。代表が参りましたので、これより最終面接を始めたいと思います」
夫を空港まで見送っていた法人の代表でありここノーザン・メモリアルパークのオーナーの山葵は、予定よりも五分遅れて登場した。
「失礼。遅くなりました、始めましょう」
最終面接を受ける候補生の三名と、もう一人の男は、目の前に現れた山葵を見て驚いていた。
それもそのはず、資本金300億を超える企業の代表が、自分達よりはるかに年若く、そして美しい女性だったからだ。
しかしそんな彼女の服装はといえば、正社員採用の最終面接だというのに、馬の耳がモチーフのフードがついたツナギ姿。さらには、すっぴんと見間違うほどの薄化粧だった。
山葵の秘書、樋浦 圭介は、彼女の前に四名分の資料を並べた。
候補者A君30代前半、総務希望
───嘘だろ、この人がCEOなのか? この会社、本当に大丈夫なのか?
候補者Bさん20代後半、施設アテンド希望
───うわぁ、すっごい美人! お肌きめ細かぁい、まつげなっが……え、ハーフ? 若くない?!
候補者C君20代前半、ウェブクリエイター兼プログラマー希望
───……あのつなぎ、めっちゃ欲しい……就職できなくても、どっかで売ってないかな……
リクルートスーツの候補者三名は、各々が異なることを頭に思い浮かべていた。