100日後、クラスの王子に告白されるらしい

11月11日、火曜日

 ロングホームルームは、相変わらずミュージカルの練習だ。

 まだ一ノ瀬と一緒に踊るシーンじゃないけど、ずっと教室の後ろから見られててやりづらい。


「柊ー、そこ、動きが逆」

「ご、ごめん」

「先週はできてたじゃん。もう1回」

「ごめんね……」


 私のせいで、何回もやり直しになった。

 もう何もかもうまくいかなくて、泣きそう。

 音楽委員の子が心配そうな顔で近寄ってくる。


「大丈夫? 柊さんが主人公って、うちらで勝手に決めちゃったからさ。キツければ他の子に代えるよ?」

「……それは」

「それは嫌だ」


 一ノ瀬が声を上げた。


「柊がシンデレラ役をやらないなら、俺も王子役はやらない」

「……って、王子が言ってるけど……どう……?」

「えっと……少しだけ、休ませてもらって、いい?」

「うん。歌の練習もあるし、それは大丈夫。できそうになったら声かけて」

「ありがと」


 私は音楽室を出た。

 廊下で窓を開けると、涼しい風とキンモクセイの匂いが吹き込んできた。


「柊」


 振り向くと、一ノ瀬が少し離れて立っていた。


「ワガママでごめん。でも、俺は他の誰かじゃ嫌だ。あと28日。俺は、お前がシンデレラ役じゃないなら、王子はしない。できない」

「……そっか。ごめん、一人にして」

「……わかった」


 一ノ瀬の背中を見送った。

 手を伸ばしかけて、やめる。
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