桜吹雪が舞う夜に


日向さんはしかし一切狼狽えた様子を見せず小さく目を細め、しゃがんで女の子の目線に合わせた。
「……結婚っていうのはな、ただ一緒にいるってだけじゃないんだ」

女の子はきょとんと首を傾げる。

「結婚は“誓い”だ。簡単に“する”とか“しない”って考えるものじゃない」
穏やかな声で、けれど真剣に続ける。
「この人と生きていく。どんなときでも支える。……そういう覚悟があって、初めて口にする言葉だよ」

子どもが「むずかしいなぁ」と唇を尖らせると、日向さんはふっと優しく笑った。
「でもな。愛っていうのは素敵なものだよ。何よりも大事で、誰かを強くするものなんだ」

女の子は「そっかぁ!」と明るく頷いて走り去っていった。

残されたわたしは、胸がいっぱいになっていた。
ーー誓いと愛。
その二つを並べて語る彼の姿が、いっそう強く心に刻まれる。

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