桜吹雪が舞う夜に

祈り Sakura side.



日曜の朝、街角の小さな教会。
白い壁に柔らかな光が差し込み、穏やかな讃美歌の余韻がまだ漂っていた。

「礼拝に行ってみたい」ーー突然の好奇心でそう言ったわたしに対して、彼はいいよ、とあっさり連れてきてくれたのだった。

礼拝が終わると同時に、子どもたちが一斉に日向さんの周りに駆け寄っていく。
「ひなたおにいちゃんー!見て見て!これ描いた!」
「宿題手伝って!」
「抱っこー!」

日向さんは少し困ったように笑いながらも、一人ひとりにしゃがんで応じていた。
「へぇ、色がすごくきれいだな」
「算数か……じゃあ一緒に考えてみようか」

その姿は医師としての顔とも、私の前だけで見せる柔らかい顔とも違った。
自然体で、けれど確かに子どもたちを導く「先生」の顔だった。

わたしは少し離れた席に腰掛け、ただその光景を見つめていた。
胸の奥がじんわり温かくなる。
ーーこの人は、本当に誰かの力になれる人だ。
そう思ったとき、惹かれた理由を改めて突きつけられた気がした。

ふいに、一人の小さな女の子がわたしの方へ駆けてきた。
ぱちぱちと瞬きをして、無邪気に問いかける。
「ねぇ、そのお姉ちゃんだあれ?」

一瞬、声が詰まった。
「わ、わたしは……」
頬が一気に熱を帯び、言葉を探してしどろもどろになる。

「この人は……俺の大事な人だよ」
いつの間にか近くに来ていた日向さんは、淡々と、それでいて穏やかに言った。

女の子はぱちくりと目を瞬かせたあと、さらに首を傾げる。
「じゃあ、けっこんするの?」

「っ……!」
わたしの顔は一瞬で真っ赤に染まった。息を呑み、思わず目を逸らす。


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