桜吹雪が舞う夜に

「まぁつまり、今日のテーマはこれだ」

黒板に「SEX」と大きく書いた瞬間、後ろの席から「ぷっ」と笑いが漏れた。
俺は振り返らずに言う。

「笑うな。これは君らがこれから必ず直面するテーマだ。……まあ、今笑ったやつが一番興味あるんだろうけどな」

ざわっと笑いが広がり、数人が赤くなる。

「じゃあ、質問タイムだ。誰か思ってること言ってみろ」

少し間があって、前の席の女子が小さく手を挙げた。
「……どうしても、汚い行為に思えちゃうんですけど、どうしたらいいですか?」

真剣な問いに、教室の笑いが静まり返る。
俺は軽く笑って肩をすくめた。

「いい質問だ。正直なところ、俺もそう思った時期が無かったわけじゃない」

黒板に二本の矢印を引く。

――「愛」
――「リスク」

「性は、汚いから避けるものじゃない。愛と結びつけば尊いものになる。でも、リスクを考えないで突っ走ると、とたんに“汚いこと”になる」

男子の一人が「リスクって……?」とつぶやく。
「例えばだ」
俺は指を折りながら数える。

「感染症。クラミジア、梅毒、HIV。君らが“まあ大丈夫だろ”で遊んだ結果、病院に来るやつを俺は何人も見てる」

「……」

……ざわめきが止まり、空気が一気に引き締まった。

「それから妊娠。コンドームは100%じゃない。ピルも万能じゃない。財布に避妊具入れて持ち歩いて“俺準備万端”とか思ってる男子、いるだろ?あれ熱で劣化して穴空いてたりする。使った瞬間アウトだ」

「……うわ」
「マジで?」
あちこちで声が上がる。

「そう。“汚い”のは性そのものじゃない。責任を考えずにやる、その態度だ。性は罰でも遊びでもない。大切にすれば愛になるし、ぞんざいに扱えば人を傷つける」

黒板に「SEX=責任」と大きく書き足した。

「……忘れるなよ。君たちがどう選ぶかで、この言葉の意味は変わる」

最後に軽く笑って肩をすくめる。
「とりあえず、今はテスト勉強の方を先に頑張れ。お前らに必要なのは避妊具よりまず教科書だからな」

笑いが一斉に起こり、教室の張り詰めた空気が少しだけ和んだ。



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