桜吹雪が舞う夜に
桜はまだ頬を赤くしたまま、ちらりと二人を見比べた。
「……朔弥さんと日向さんって、本当に仲良しなんですね」
その言葉に、俺は思わず眉をひそめる。
「仲良しって……子供じゃあるまいし」
すかさず朔弥が笑いながら肩をすくめた。
「ほら見ろ、こういう反応するから可愛いんだよ。なぁ桜ちゃん、こいつツンツンしてるように見えて、俺のこと信じて色んな話してくるんだぜ」
「言うな」
低く遮った俺に、桜はくすっと小さく笑った。
ほんの一瞬でも、彼女の不安が和らいだのなら、それでいい。
朔弥の茶化しも、こういう時は悪くないと内心で思った。
けれど次の瞬間、ふっと表情が陰り、ほとんど口の中で零すように呟いた。
「……羨ましいです」
その声は俺にしか届かないほど小さかった。
「私の親友は……理緒は、もういないから」
ほんの一瞬、胸の奥が強く締めつけられる。
桜の視線は落ちたままで、朔弥には聞こえていないらしい。
「……」
返す言葉が見つからず、ただそっと彼女の肩に手を置いた。
俺にしか聞こえなかったその呟きが、心の中に響いていった。