桜吹雪が舞う夜に
桜は、感じた悲しみを振り切るように、ぱっと顔を上げて言った。
「お二人の出会いの話とか……聞いてみたいです!」
「……出会い?」
突然の話に、俺は首を傾げる。
朔弥はグラスを置いて、にやっと笑った。
「そりゃあ音楽高校だな。俺が初めて御崎日向のピアノを聴いたとき」
「……そんな大げさに言うな」
俺は眉を寄せながらも、心の奥にあの日の記憶が蘇っていた。
「大げさじゃねぇって。あんな正確で、冷たく研ぎ澄まされたショパンの“木枯らし”……俺はその瞬間、ピアノってのは才能のある人間がやるものだって思い知らされた」
朔弥は照れもなく言い切った。
「……俺だって、驚いたよ」
静かに言葉を返す。
「お前の即興。コード進行を外さず、でも自由自在に流れていく旋律。あれは……衝撃だった」
桜は目を丸くして二人のやり取りを聞いていた。
「お互いに……最初から、そう思ってたんですね」
朔弥は肩をすくめて笑う。
「まぁな。……だから今でもこうして、腐れ縁で繋がってんだろ」
俺は軽く息を吐き、桜の視線を受け止める。
「そうだな。あの日から、互いの音楽に惹かれ続けてる。……きっと一生な」