桜吹雪が舞う夜に
やがて女の子たちは、思うようにならなかったのか、互いに笑い合って店を出ていった。
グラスの氷が小さく音を立てて、やっと静けさが戻る。
私は前から気になっていたことを、思い切って口にした。
「……そもそも、朔弥さんって。恋人いるんですか?」
思わず、という感じだったのかもしれない。
すぐに横から日向さんが遮るように声を挟んだ。
「こいつは、見ての通りだ。……何人もいる」
「はぁ!?やめろって!」
朔弥さんが慌てて大きく手を振る。笑いながら、グラスをトレイに並べて置いた。
「俺をどんだけチャラく見せたいんだよ」
私は一瞬言葉を失い、思わず二人の顔を交互に見た。
軽口なんだろうけど、妙に気になってしまう。
「……冗談だ」
日向さんはすぐに付け足すように言った。
「実際はゼロだ。モテるくせに、意外と選ばないんだよ」
その言葉に安堵しかけた瞬間、朔弥さんがふっと笑って、肩をすくめた。
「……選ばないっていうかさ。恋愛なんて、口説くとこが醍醐味のゲームだろ。相手を落とす、その瞬間が一番面白い。……その先が面白いと思ったことが、俺にはあんまりない」
「……ゲーム、ですか」
思わず声が漏れた。
「そう。勝つか負けるか。それだけ」
朔弥さんは真剣とも冗談ともつかない調子でそう言って、グラスを傾けた。