桜吹雪が舞う夜に


夜風が冷たくて、二人並んで歩く帰り道。
気まずい沈黙を紛らわせるように、私はふと口を開いた。

「……朔弥さんって、ハマると地獄を見そうですね」
自分で言いながら、ちょっと笑ってしまう。
「メンヘラ製造機っていうか」

横を歩く日向さんが、苦笑とも溜息ともつかない音を漏らした。
「……お前、たまに妙に正確なこと言うよな」

「えっ、そうなんですか?」
目を丸くする私に、彼は視線を前に向けたまま続けた。

「朔弥に惹かれる子は、どこかで『自分だけを特別にしてほしい』って期待を持っちまう。でもあいつは、最初から応えない。……だから余計に依存させるんだ」

低い声だった。
その横顔には、親友だからこその諦めと、切なさが滲んでいるように見えた。

「……日向さんは、全然違いますよね」
自然に、そう言葉が出ていた。

彼は少し黙ってから、短く息を吐いた。
「俺は……不器用なだけだ」

その言葉の重さに、胸がじんと熱くなった。

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