桜吹雪が舞う夜に



無意識に、言葉が零れた。

「……でも、不器用な人の方が、好きです」

言った瞬間、ハッとして口を押さえる。
「……あっ、今のは、その……!」

頬が一気に熱くなっていく。
足取りまでぎこちなくなって、つい俯いてしまった。

数秒の沈黙。
横を歩く日向さんの気配が、ふっと和らぐ。

「……変なやつだな」
小さな笑い声が耳に届く。

「え、笑わないでください……!」
恥ずかしさに抗議すると、彼は首を横に振った。

「笑ってない。ただ……少し救われた」

その言葉にまた胸が熱くなり、足音だけが夜道に続いた。


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