桜吹雪が舞う夜に
疾走 Sakura Side.
2年生になって、変わったことが、ひとつある。
救急救命サークルの主務を務めるようになったのだ。しかし慣れない仕事に、毎日が走っているみたいだった。
授業の合間に会計の報告をまとめて、講習会の会場を押さえて、救急用品の在庫を確認して。
バイトは減らしてもらったけど、その分サークルの仕事に全部埋め尽くされる。
「桜さん、次の講習会の資料、まだっすよね?」
後輩が覗き込んでくる。
「……今日中にやるから」
笑顔を作ったけれど、頬が引きつっているのが自分でもわかる。
(大丈夫、大丈夫……私がやらなきゃ)
パソコンに打ち込む指が震えていた。
けれど止めたら、全部崩れてしまう気がして、手を止められなかった。
バイトも、サークルも、授業も、
――どれも中途半端になっている気がした。
資料を作っていても、誤字に気づけない。後輩の質問に答えながら、次の会議の予定が頭から抜けている。
小さな失敗が積み重なって、自分に呆れる。
(どうして……こんなにキャパがないんだろう)
スマホにふと映るSNSのタイムライン。
「今日も当直」「外来終わらず」「研究データ処理に追われてる」「緊急呼び出し入った」
――日向さんの忙しさを、私は知っている。
あの人は、患者を相手にして、研究に追われて、それでも淡々と働き続けている。
同じ「忙しい」なのに。
(比べものにならない。日向さんに比べたら、私は……何もこなせてない)
胸がじわりと熱くなり、俯いた視界が滲む。
笑顔で「大丈夫」って言いながら、内心では自分を責めるばかり。
「桜。無理すんな」
短く届いたメッセージに、息が詰まった。
どうしてだろう。
ほんの一言なのに――悔しくて、情けなくて、それでも救われてしまう自分がいた。