桜吹雪が舞う夜に
水瀬先生は腕を組みながら、少し小さく息を吐いた。
「……やっぱり、私みたいになると、日向はきっと存在理由を見失っちゃうんだろうね。貴方を見て、確信したわ」
「存在理由……?」
私は小さく首をかしげる。
「そう。あの人、誰かを守ることで自分の意味を確かめてるところがあるから。
私みたいに自立してて、仕事も自分でなんとかできる女と一緒だと……その“役割”が奪われる。だからきっと、私とは長く続かなかった」
淡々としているのに、不思議と胸に重く響く言葉だった。
私は思わずノートを抱きしめ直す。
水瀬先生は静かに私を見つめ、口元にやわらかな笑みを浮かべた。
「……程よく甘えなさい。あなたはそれができる子だと思うから」
その瞬間、私の胸に、じんわりと温かさと戸惑いが混じった感情が広がった。
ーー敵意でもなく、優越でもなく、ただ真実を突きつけられたような言葉。
(……私は、甘えられているんだ。
日向さんに、守られてる……。だから、そばにいられる……?
もし私が強さを手にしたら、あの人は逆に私を必要となんてしてくれなくなるってことなの……?)
答えの出ない思いが渦巻く中、返す言葉を失い、ただ小さく頷くしかなかった。