桜吹雪が舞う夜に
気づけば再生が終わり、関連動画のリストが自動で並ぶ。
けれど視線はその下にスクロールしてしまった。

〈コメント欄〉

「懐かしい!サンジャム!このバンドめっちゃ聴いてた」
「キーボードの人、今どうしてるんだろ。ピアノめちゃくちゃ上手かった」
「いや、顔もイケメンだったんだよな。ステージ映えしてた。」
「サンジャムの日向〜!またバンドやってほしい」

画面を見つめたまま、心臓がぎゅっと縮む。
サンジャムの日向。
あの人は、まだ医者じゃなかった頃。観客の誰かにそう呼ばれていた。

「……そうなんだ」
思わず呟いてしまう。
どこか誇らしいのに、同時に胸がざわめいた。
彼を知っているはずなのに、まだ知らない顔が、そこにある。

……その事実が、胸をただ苦しくした。


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