桜吹雪が舞う夜に
鎖 Hinata Side.
信じるとは、なんだろう。
ただ黙って相手を見守ることか。
それとも、危うさを知りながら背中を押すことか。
水瀬の言葉が頭を離れない。
――『あんたはあの子を信じてないんじゃない?』
違う。俺は信じている。
桜なら立派な医師になる。
患者の前に立ち、決して目を逸らさない医師に。
その未来を、本気で信じている。
だが――信じるだけで、守らなくていいのか。
桜はまだ20歳の学生だ。
自分の身体の限界なんて知らない。
どれだけ眠らなくても正気を保てるのか。
どれほどの酒に耐えられるのか。
どんなに悪意ある言葉を浴びせられても折れないのか。
……その全てを、まだ経験していない。
信じるということは、放り出すことなのか。
それとも、限界にぶつかる前に抱きとめることなのか。
俺はどちらを選ぶべきなんだ。
桜を信じるために、突き放すのか。
桜を守るために、信じないのか。
その狭間でもがくたび、彼女の存在の重さを思い知る。
――信じることも、愛することも、こんなにも苦しいものだったのか。