桜吹雪が舞う夜に

『それってつまり、桜ちゃんの力を信じてないってことでしょ?
“どうせ無理だから、俺が決めてやる”――立派な蔑視だわ』

……そうだ。蔑視と言われれば蔑視してる。

ずっと、女性は守らなければならないと、半ば呪いのように思ってきた。

だって自分より弱い存在だから。
聖書にも、そう書いてある。

――「妻を愛しなさい。キリストが教会を愛し、ご自分を捧げられたように」
――「妻はか弱い器だから、いたわって共に生きなさい」

牧師だった父が何度も口にした言葉。
幼い俺は、それを当然の掟のように受け止めた。

……男女平等だなんて言っても、子どもを産むのは女性にしかできない。
男の身体はより頑丈に造られている。
神がそう造った以上、役割があるのだと。

だから、女性を守ることは男の義務であり、愛の証だと信じて疑わなかった。

だが――桜を見ていると、時々わからなくなる。
守ることは、本当に彼女のためなのか。
それとも……俺がそうしていなければ不安だから、自分を納得させるためなのか。

彼女が自分の足で立とうとしているのに、俺はその前に立ちはだかっていないか。
信仰に従うつもりで、むしろ神が与えた可能性を奪っていないか。

『ならもう腹括れよ。守るだけの恋か、隣に立つ恋か。どっちも取ろうとするから、拗れるんだ』

ーー自分の理想だけを語るなら、守るだけで十分だった。でも、彼女はそれを望んでいない。
俺は彼女を、これが愛だなんて優しい言葉でこれ以上縛れない。

守ることと信じること。
愛することと縛ること。
……その境界が、日に日に分からなくなっていく。

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