桜吹雪が舞う夜に
窓の外に沈んでいく夕陽を眺めながら、私は胸がいっぱいになっていた。
こんなふうに誰かと並んで景色を眺めるなんて、夢みたいだ。
「……本当に、来られてよかったです」
思わずこぼれた言葉に、日向さんは静かに頷いた。
「そうだな。
俺はこういう時間が、一番幸せだと思う」
その声は、私よりもずっと落ち着いていて。
“日常の延長”みたいにさらりと口にする彼に、少しだけ胸がざわめいた。
私にとっては特別で、非日常で――忘れられない一日なのに。
彼にとっては“普通の幸せ”の形なのだろうか。
けれど同時に、そんな普通を私と望んでくれることが、何より嬉しくて。
私は彼の横顔を盗み見て、小さく笑った。
(……私も、こんな日々を守れるようになりたい)
波の音が絶え間なく寄せては返す。
露天風呂から立ち上る湯気の向こう、夜の気配がゆっくりと満ちていった。